モンロー効果 3 昼休憩。珍しくBクラスの方が1分ほど早く終了したので、真里は隆を迎えに隣の教室へと足を運んだ。 静かだった授業を終えて、Cクラスの生徒は昼飯を取るべくざわめき出す。 席をくっつけ、弁当を取り出すもの。 学食へ向かうため、財布を取り出すもの。 お昼ご飯はとにかく自由に、がこの学校のモットーだ。 「野島君どうしたの、あっ、隆君に用かな?」 ふ、と目が合ったのは、真里と同じ委員会に所属している女子だ。 可愛らしい仕草で教室へととんぼ帰りをして、隆の元へと戻っていく。 頼んでもいないが呼んでくれるとの事で、真里は待っていたのだが。 「私と野島君はおんなじ風紀委員会なんだけどね、これって教師からの推薦がないと入れないんだよ〜」 すごいでしょ!?そう言って笑う少女は、先ほどと変わらずCクラスの彼女だ。 何の因果か隆を呼んだ彼女は、自分も学食で食べるとの事で、そのまま二人にくっついてきたのだった。 「押しつけられた俺とは正反対っすね」 気まずそうに隆は相づちを打つ。3人で会話をする事などこれが初めてになるのだから、それも仕方がないとは思うが。 「それを言うなら俺だって、勧められたけどあんま委員会参加してないし」 そうだ。話を終わらせて彼女にはご退場願おう。 そう考えた真里が話を終結へと運ぶも、彼女はそうは思っていないようだ。 「隆君はそこらへん頑張ってるよねって、メイちゃんと話してるんだよ」 メイちゃんとは、あのBクラスの整備委員の生徒の事であろう。彼女のフルネームとは全然かすりもしていないのだが、そう呼ばれているのを真里が聞いた事があった。 「まぁ俺、問題児だったし、それくらいはな」 メイさんにも助けられてばっかりっすよ。そう隆も返事をするが、3人ともに乾いた笑いが起こるだけだった。 (き、気まずい……というか、食べづらくないのかな) 先ほどからちらちらと隆が見てくるのは、恐らく真里だけの気のせいではないだろう。 真里の予感がはずれていなければ、隆は嫌な勘違いを再びしているに違いない。 「よし、食べ終わったから私はもう行くね」 お邪魔しました、と控えめに微笑み、彼女はトレーを片手に席を立つ。すると隆は、やはりというか予想に反する事なく真里に耳打ちした。 「真里君、追いかけなくていいのか」 好きな人って、あの子だろ。そう言う隆の声は、どこかふっきれているかのごとく明るく聞こえる。 何を言っているのだと振り向いてその表情を確認するも、隠してしまったのか無に近い笑いだった。 「俺の事はいいからさ、頑張ってこいよ」 「隆君、ずっと言いたかったんだけどなんか勘違いしてない?」 今更かも知れないが、もうふっきってしまったとは言わせない。 それこそ相談をし始めた当初は自分でもわからなかったが、それはもうかつての話だ。 身勝手な話かも知れない。だが真里は今こそ決心を固めて、隆へ再度首を振る。 「俺が片思いをしてる相手は、彼女じゃないよ。 それが知りたかったら、放課後Cクラスの教室で待ってて」 「……わかった。やっと話してくれるんだな」 わかったと言って親指を立てる隆が。 −他でもない君が。彼自身が、真里にそれを気づかせてしまったのだ。 一緒にいて嬉しくなったり悲しくなったり落ち着かなくなるのも。 知らず知らずのうちに表情が出てしまったり、世界を広げられる事を尊いと思うのも。 (隆君が好きだからだったんだ) あの時、お試しでもなんでも想いを受けていれば。こんなにもすれ違う事はなかったのだ。 (ごめんね……でも好きだよ) あの告白は、まだ有効だろうか。 それとも、もう彼は本当に真里の事をふっきれてしまったのだろうか。 だがそうだとすれば、今度は自分が片思いになるまでだ。 これからどうなるかは全くわからないが、それすら愛おしいと思えるのは、きっと隆が真里に与えた新しい感情だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |