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モンロー効果
Friendship
 隆の涙を見ると、真里はどうしようもない気持ちにかられる。

自分は意外とサディストな性質を持っていたとでも言うのだろうか。
知られざる自分の一面など、知りたくもなかったが、それにしても隆が追いつめられているような気配がしているのはなんとも嫌な雰囲気だった。

 教室に戻る途中、Bクラスの整備委員とCクラスの女子に再び遭遇した真里は、避けたい気持ちを押さえて挨拶する事にした。

12月は日が沈むのが早い。すでに夕の刻に入り欠けた廊下は、上靴を水色のリノリウムに反射させている。

(目があったのに無視したら、それこそあからさまな噂の種だよ)

今でこそ噂は少なくなっているとは言え、隆が勘違いしたままでは意味がないのだ。
出来るだけよそよそしく話を打ち切らせよう、真里はそう思った。

「君たちこそ仲いいんじゃん」

いつぞやに言われた事をお返しするかのように、真里は少しだけ意地悪く話しかける。
すると彼女たちは、共通点があるから、と明るく言った。

「共通点って、もしかして」
「もう知ってるかと思った。隆君だよ」

Cクラスの彼女が何ともないようにそう言う。
やはり彼女は、隆とそれなりに仲の良い生徒なのだろう。

 元々、二人は問題児であった隆が一人浮いている様子だったので、教師に頼まれて声をかけるようにしていたらしい。
しかし最近では、反応や一人でいるときの行動が面白く、つい自ら話しかけてしまったりしているらしい。
隆はやはり、無自覚に一部の人を魅了する効果があるのだ。

「それでね、やっぱり最近なんか無理してそうって話してて」
「ねぇ、野島君。何か心当たりない?」

それはまるで。真里が原因だと心当たりにすでに検討をつけているかのような言い方で。

(……言われなくてもわかってる)

余計なお世話だ。そう素直にそう思えたし、何より自分よりも隆の事を知っていると突きつけられているような気がした。
隆の事を思うと、無性に黒い感情が沸き上がってしまう。

−どうして自分がこんな胃のむかつきを覚えなければならないのか。
その怒りの矛先は、絶対に向けてはいけない存在−隆に向けられた。

 「なんでそんな俺のために頑張ってくれるの」
自暴自棄なメールと、真里は我ながら嫌気が差した。
返事がくるまで、多少の時間を要したのは、隆も困ってしまったからだろうか。
スマートフォンがバイブレーションをするので慌てて真里が手にすると、珍しいそれは着信を知らせるサインだった。
真里はしばし思案した後、応答をタップした。

「……なんで、電話なの?」
「なんでだろう。直接言いたかったからかもな」

そうして一度言葉を区切って、隆は息を吸い込んだようだ。

「俺さ、真里君に『誰か』が出来るまでは、一緒にいたいって思ってるんだ」

俺のものにならないなら、早く誰かのものになって安心させて欲しい。
隆が言う身勝手なわがままは、これで数度めに入るはずだったが、これが一番本音に近いように真里は感じる。

「そんなの、隆君が辛いだけじゃん。馬鹿みたいだよ」

自分とはまるで温度差があるようで。
それが真里にとっては悲しいのだった。

だからこの『馬鹿みたい』は、自分に向けて言ったつもりだった。

「だよな。でも俺と真里君は友達じゃないから。ただの親戚で、だからこそ出来る事がないかって、ない頭なりに考えたんだ」

なんだかんだ言ったって、幸せになって欲しいから。
そう言う言葉の端々は震えて、泣いているかのように隆の耳に届いた。
目の前にいたなら、ぬぐい取ってあげられるのに。
会話が途切れて、隆も真里も黙りこくってしまう。
このまま会話が終わってしまうのは嫌だった真里は、無理に話題を作る。

「最近、涙もろくなったって整備委員の子が言ってた」
「ま、まじで!?クラスのやつにだって一人くらいしか見られてないのに」

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あきゅろす。
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