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モンロー効果
5
 もっぱら提案厨と化した隆に、当初は辟易こそしたものの、今では若干の好感を抱き始めている真里がいた。

「今日はどんなのがオススメなの?」

果てには自分から聞いてしまう始末だ。
すると隆は、フフンと笑いながら一冊の文庫本を自らのポケットから取り出した。
レトロなロゴが目立つ、目の大きいキャラクターが描かれたそれは、紛れもなく少女漫画というジャンルのものだ。

「聞いて驚け……デートだ」
「えっそんな……俺にはまだ早いよ!」

隆と一緒にいると、何故かノリノリになってしまう。
お互い内弁慶なタイプと思いこんでいたが、いつの間にか家のように自分を出せるようになっていたのか。

「大丈夫だって。女子は少女漫画好きじゃん」
「うん、だから真似すればいいって事?」

相談しているのは君だから、女子は参考にならないかもだけど。
そこまで考えて、真里ははて、と思い直した。

(今何か、気づいてはいけない事に気づきそうな気がした)
しかし、一瞬脳裏にかすめた電球は一瞬で消えうせ姿形もなくなっていく。

「それで、隆君はどんなデートがいいと思う?」
「俺としてはやっぱり遊園地かな−ってこれは俺の好みじゃん!」

少女漫画を参考にしようと開こうとする隆に、真里はわざとらしく首を傾げてみせる。

「隆君の方聞いてからでも、遅くないよ」
「わ、わかったよ。真里君がそこまで言うなら」

 隆が理想とする−すなわち、好きな相手である真里と行きたいデートと言うのは、ずばり普通の遊びと変わりなかった。

「遊園地にいくなら、まずバイキングには乗りたいと思うんだよな」
「それってフライングパイレーツ?」
「そういう名称のもあるな。あれの最後尾ってすっげースリルあるんだよ」

だから、一緒に乗った人と妙な一体感を味わえるんだ。
そう言って満面の笑みになる隆。
乗ってもいないのに明るくなれるのは、独特の感性ではなければ出来ないのではないだろうか。

「それから、コーヒーカップ?っていうのか、あの回るやつ」
「グルグル回しても、あえて景色を楽しんでもいいよね」

俺は行ったことないけど。と真里は付け足して続ける。
テレビなどで家族が楽しそうに乗っているのを見て、密かに憧れたものだ。

「エクスプレス系っていうアトラクションには乗らないの?」
「真里君、意外と詳しいな。でもああいう系はライトアップが綺麗だから、夕方乗った方が良いと思うぞ」

うっとり。それは情景を思い浮かべるように。
節目がちに隆がそう言うと、真里は心の中で覚えておこうと反芻した。

「キャラクターグリーティングがあったら、一緒に写真撮ったりしてな」
「場所によっては、ショーとかパレードとかもあるんでしょ」
「そうそう。季節ごとに衣装が変わったりしてな」

隆の方こそ、意外に詳しいのではないだろうか。
活発なタイプの彼だから、家族で行ったりしていたのだろうか。
真里がふむふむと頷いていると、隆はそれまでの笑顔が嘘だったかのように、急に居心地の悪そうに口を閉じた。
心なしか、その輪郭も震えているように見える。

「……これは俺が真里君と行きたい遊園地だから、参考にならないよ」

だからこの話は一旦おしまい。
そう言って隆は弁当箱の蓋を閉じる。

半分以上中身の残ったそれは、二人がそれほどまでに話に熱中していた事を表している。

「ごめん、ちょっとだけあっち向いてて」

見られたくないから。そうはっきり拒絶をされてしまえば、逆に見てしまいたくなるもので。

「隆君、俺何か気分悪くさせちゃったかな。ごめんね」
「謝らなくて良いさ、俺からはじめた話なんだから」

唇をかみしめて、こぼれ欠けた滴を呼吸とともにおさえこんだ隆は、真里に向き直る。

「やっぱり、真里君が一番良いと思えるのが一番だよな」
真里はここにきて初めて、隆と一緒にいる事を悲しいと感じるのだった。

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あきゅろす。
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