モンロー効果
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それから、隆の『応援』はどんどんビートアップしていったように真里は感じている。
本当に心から真里の幸せを願って、あれがいいこれがいいなどとゴシップ記事までもを持ってきた時はさすがにちょっと引いてしまったが。
12月も中頃に入った今日も今日とて、隆からは絶えずメールが届く。
それこそ、状況と内容が違えば押してダメならなんとやらというものに似ていた。
「今日は話しかけたか?」
気を使っているのか、やけに女子力の高い絵文字をチョイスされる事が多くなってきている。
クラスメイトの女子にでも聞いたのだろうか?
そんな様子は想像してみるだけで真里の心にどす黒い雲を広げる事になるのに。
「話しかけるのは難しいよ。別のクラスなんだから」
−だって、君の事なんだし。
そこまでは書かずにあえて送信すると、堰を切ったようにすぐさまメールが返ってくる。
「真里君って、他のクラスのコが好きだったのか」
まさかこう返ってくるとは思わなかった。
隆に意地悪をする為に、恋愛相談ではないと言っていなかった自分も悪いが、ここではいそうですと返すと後が面倒そうだ。
(どうせ明かすなら、もう少し君に自覚して貰ってから)
そっとスマートフォンを胸ポケットへしまった真里は、断腸の思いでメールを無視する事にした。
平日一日の中で真里と隆が口頭で会話らしい会話が出来るのは、昼休憩の50分間がほとんどだ。
今日の隆の弁当はと言えば、クラスメイトの女子に教えてもらったというキャラクターを模した、いわゆるキャラ弁だった。
情け容赦なくキャラクターの顔面に箸を差し込んで、隆は口を開く。
「これ、オムライスにしたんだけど−ってそれどころじゃなかった、真里君、片思いしてたんだな」
あの無視を、好意的に解釈したらしい隆は、手の甲を頬にあて、真里の顔と自らの顔を寄せた。
ひそひそ話のポーズだ。思わず真里も顔を寄せる。
「あのさ、ここだけの話なんだけど−俺で良かったら練習台?予行演習?になるからさ、何でも言ってくれよ」
何のこっちゃと首をかしげる真里に、隆はさらに続ける。
「ほ、ほら告白とかって実際に人がいた方がやりやすいと思うし!」
(別にそんな相手はいないけど……)
しかし、隆のその提案は面白そうだと思った。
他でもないこの親切な親戚が、頑張って考えてくれたのだろう。
それを無碍にするのも、何か悪い気がしたのだ。
「ありがとう……でも隆君の方が、経験少ないって言ってなかった?」
「それは言うなよ!」
「冗談。助かるよ」
自分でも知らないうちに笑っていたらしい、隆はそれに一瞬ぼうっと見つめていたかとおもうと、それはそれは嬉しそうに笑い返した。
そして、あの『癖』をする。本当に最近よく見るようになっていた。
Bクラスの教室へ戻る途中、廊下で話す整備委員の女子とCクラスの女生徒に真里は出くわした。
「あ、野島君じゃない!隆君見なかった?」
「トイレ寄るって言ってたから、もう少しかかるかと」
Cクラスの彼女とは、自分の委員会が同じだからいくらか話した事はある。
Bクラスの彼女とはまた違った個性と魅力のある少女だと、学年でも人気の人物だ。
話に出てくる事はあまりないが、隆とは同じクラスだったから、それなりに仲はいいのだろうか。
それにしても隆は、自分で思っているほどクラスメイトに好かれているというか何というか、他人と程良い距離をとるのが上手らしい。
(俺はいつまで経っても『野島君』だけど、隆君は『隆君』だもんね)
それが羨ましいのか何なのか。
隆君と呼ばれ会話する彼女たちと隆の事を思い浮かべるだけで。
自分では処理しきれない、よくわからないどす黒い感覚が胸につっかえていく。
自分の知らない隆がいる事実を叩きつけられるのが、真里には怖くて仕方がなかった。
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