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モンロー効果

 「俺、真里君の事好きだよ。もちろん、今まで告白してきた女の子と同じ意味で」

直前まで考えていた言葉など、もはや思考の遠く向こうへ吹っ飛んでしまっていた。

用意していた言葉をそのまま言うのなんて、サイボーグみたいで自分には似合わないと思っての事だったが、それは素直に言ってしまう分、生々しいものがあった。

告白された事のある真里なら、きっとこの言葉も、ただの記憶の一部として『よくわからない』部類に押し込まれてしまうのだろうか。
言い切ってから、思い切って顔を上げると、予想に反して真里は無表情になっていなかった。

「一応告白してるんすけど……あの、真里君?」
「……うん、その気持ちは、嬉しい、よ」

一言一言を、区切るように言うその言葉に嘘は全く感じられない。
世間一般で言うような、これはまさかワンチャンという状況なのではないだろうか。

一瞬でも期待に胸が躍りかける隆だったが、しかし、次に出てきた一言は、天地を返す鋭い刃だった。

「俺はそれを受け入れてあげる事は出来ないけど、でも、打ち明けてくれてありがとう」

表情は−まるで慈しむような笑顔だった。
隆にショックを与えないように考えて話しているのか、自分で言いながら頷いている。
その姿を見てしまっては、隆はもうこみあげる何かを押さえる事などできなかった。

「俺は……っ、真里君の事、好きでいてもいいか……!?」

目尻を強引に袖で拭うと、本当に言いたかった言葉を告げる。すると彼は、その腕を掴んで自らの両手で包み込んでみせた。

「いいよ。だって言うかどうか悩んでくれてたんでしょ」

むしろ大変な思いさせてごめん。
淡々と、それでも人の気持ちを考えてくれる優しい言葉だ。

やっぱり真里は、親戚だとか同性であるかとか、そう言った事を気にしないさっぱりとしたいい奴だった。
隆は、自分との賭けに勝ったのだ。

 慰めはいらないだとか。ふられてもきっぱり諦められるとか。
そんな考えはそもそも必要なかった。
隆にとっては言えれば万歳。許して貰えるのなら万々歳だったのだから。

 その後2日間、隆は原因不明の高熱を出して土曜・日曜日の休日が潰れてしまった。
普段は体調を崩さない皆勤賞だけが取り柄の隆だったからこそ、野島家にとってはちょっとしたニュースだった。
母親には心配をされるし、隆にはまさしく踏んだり蹴ったりだったが。

(でも、息子がホモで悩んで知恵熱出したとか、恥ずかしすぎてさすがに言いたくない……)

一人で育ててきてくれた大事な肉親だからこそ、何も言わないでこの恋を終わらせたかった。
恐らく何かに悩んでいる事には気づかれてしまっているとは隆も感じていたが、何も言わないでいてくれる事に感謝した。

 月曜日の朝。通学路で真里と出くわした隆は、なんとか呼吸を落ち着かせて挨拶をする事が出来た。

「俺さ、真里君の事応援する事にしたよ」

それは、2日間熱に浮かされながらなんとか弾き出した自分なりの答えだった。

「乗り越えようとしたり、応援するって言ったり、隆君は忙しいね」

でも、ありがとう。
ふっと一瞬だけ笑った真里は、これからもずっと隆の好きな人であり続ける。
隆はそんな予感を感じながら、それも悪くないと思っていた。

「いじわる言うなよな。俺は応援しながら真里君を乗り越える男になって見せるって事だよ」

そこには2つの意味が含まれているのだが、それは真里には秘密だ。

それから、どちらからともなく昇降口で分かれる。
ふっきれた隆は自分の教室へと一直線に進んでいく。

その後ろを、名残り惜しむように見つめているのは真里だった。
表情は、何かをためらっている。そして、ふと目を閉じると自らも教室へ向かうべく動き出した。
そのさらに後ろから、見つめている女子がいる事にも気づかずに。

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あきゅろす。
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