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モンロー効果
はじまりはここから
 野島隆は、小さい頃、おそらくは生まれた時から何をやるにしても無気力で怠惰な性格だった。

運動は人よりも出来る方だったが、特にこれと言って興味のあるスポーツがある訳でもなく、かと言って他に熱中するような趣味がある訳でもない。

そんな隆は、家から一番近い高校に、友人家族、果てには自分自身でさえも奇跡と思えるようなギリギリの成績で何とか合格を納めた。

それまでの人生、どうせやるならいい点をとってやろうと意気込んだテスト以外では全くやる気を見せる事がなかった事を、隆は入試当日の面接を始める瞬間になって初めて後悔していたが。

中学校生活で打ち込んだ事と言えば、携帯電話のボタンくらいだったのだ。
ああ、普段の授業を少しでもまじめに聞いていたら、何か変わっていたのだろうか……と。

 それでも、いざ入学が決まってしまえばそんな事を考えていた気持ちはどこへやら。
数週間もたたない内に、隆はやる気と言うやる気を根こそぎポケットの奥の方へとしまいこんだ。

後悔?受かったんだからいいじゃないですか何それおいしいの状態だ。
そうやって、いままで通りに、高校生活も中学時代の日常生活と何ら変わりないように過ごしていくものだと思っていた。

そして実は、それがほんの少しだけさみしいような気もしていた。そんな矢先の、事だった。

 「隆君ってさ、お隣Bクラスのノジマ君とは何かつながりあるの?」

それは、桜もすっかり散り終わり葉が生い茂る、四月の末。
何気なくクラスメイトの女子から尋ねられた一言だ。

隆は、考えるそぶりもなく一瞬の躊躇いもないままに首と手を振って、降参するようにあっさりと答える。

「同クラでもまだ覚えきれないくらいなのに隣のクラスまで無理っす」

尋ねた本人はと言えば、その様子を見るや否や分かるとでも言いたげに大げさに頷いた。

困ったように下がる眉毛がちょっと可愛らしいな、などと隆がぼんやりと考えていると、予想の斜め上の言葉が返ってきた。

「あっちの野島君とは違って記憶力悪そうだもんね、隆君の方は」

喧嘩を売りたいのだろうか。
生憎だが面倒事の嫌いな隆はわざとらしく拗ねたふりをしてそっぽを向く。

嫌な態度だな、と自分でも思うものだったが、それだけむっときたのだ。

隆の様子に慌てたクラスメイトは、お詫びの証だろうか頼んでもいないのに『あっちの野島君』についての情報を教えてくれた。

こっそりと耳打ちしてくれたから、隆はこの際とりあえず彼女を許すことにする。健全なダンシコウコウセイの一員だから。
 彼女曰く、彼女とその人物は同じ委員会を通じて交流が始まったらしい。
そして、自己紹介の折りに、自らのクラスにも野島がいると言った所、眉をぴくりとも動かさずに知っている、と答えたのだそうだ。

そこまで聞いて、隆の気分はますます急下落した。
自分がまだ知らない人物なのに、向こうさんは自分の事を知っているとは……普通、ある程度の事を知ってからでないと、おいそれと他人の事を知っているなどとは断言できまい。

つまり、少なくともその『ノジマ』は、隆についてある程度の事を知っているに違いなかった。

(ノジマなんて、そう珍しくもないよくある名字だろ。家電とか売ったりしてるくらいだし)

きっと、たまたま同じ名字だったから少し気になって、人づてにでも聞いたのだろう。
そうでも思わないと、どうにも胃のむかつきを抑えられそうにない。
欠伸まじりにため息を吐いて、隆は机に突っ伏す。クラスメイトは雰囲気を察してか、そうっと離れていくだけに留まった。

(ノジマの事とか考えるだけ無駄だし、なんかちょっと面倒な事になりそうだな)

その時はその時動けばいい。何の根拠もないけどなんとかなる。
それが、隆の無気力座右の銘だった。

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あきゅろす。
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