モンロー効果 3 2学期最初の日。 隆がトイレから戻ってくると、そこには郵便局からの不在表よろしくクラスメイトの女子が立っていた。 Bクラスのノジマ君を教えてくれた彼女とは、隆は何かと縁がある気がする。 (普段話すとかは滅多にないけど、名前はなんだったか。よし、なんとかさんだったような) 「隆君、どうしたのぼーっとして」 「あ、いやなんでもない、っす。そっちこそ何か用……っすか?」 慌てて現実に戻ってくると、目の前の彼女はそうそう!と軽快に笑ってみせる。 「隣のノジマ君がさっきまでいたんだけど、後でまた来るって」 そういえば。真里は今朝方「ジャージ貸して」とメールを送ってきていた。 恐らくはその事だろうが、Bクラスの体育の授業には間に合いそうになかった。 時計を見上げて、もう数秒で始業のチャイムが鳴ることを確認すると、隆も彼女も席につく。 結露の出始めた窓ガラスを見ていると、寒さも厳しい季節になってきた事がしみじみと感じる。 教室内を確認してみても、その多くは衣替えを終え冬服−と言ってもこの学校は私服も可能だから大半は長袖の服なのだが−になっていた。 (タイミングが合わないことって、よくあるし) なにはともあれ、クラスメイトの彼女には、隆は恩がある。 本人は全く自覚がないだろうが、いずれ何かお礼をしなければならない。 隆はそんな事を思いながら、授業の準備をすべくノートを開いた。 次の休み時間は、体育終わりなのもあってか真里が来ることはなかった。 大丈夫だったか、少し心配しない事もない。 素直にその気持ちをメールするも、やはり忙しいのか真里からはなしのつぶてだ。 しびれを切らしてBクラスへ行ってみるも、入れ違いなのか真里はいないようだった。 寒さのせいか廊下には人一人おらず、Bクラスの生徒もほとんど着席をしている。 むしろ、ぽつねんと空いている真里の席が異様なようだ。 まるで避けられているかのような……しかし、Bクラスの生徒の反応を見るに、そういう事でもないようだった。 「野島も今しがた出ていったんだよー!」 「じゃあ次の休みになったら、つかまえておいてくれますかね」 快く了承してくれた生徒に感謝をしながら携帯電話で時間を確認すると、ふとした事に気がつく。 (そうか、次の休みは昼休憩か) それなら、嫌でも会えるに違いない。何故なら毎日一緒に昼食を食べているのだから。 −しかし、その予想は意外な形で裏切られる事になる。 「“ごめん、ちょっと呼び出されてる”……?」 それは、いつまでたっても学食に現れない真里からのメール返信だった。 そうだ、うっかり忘れていたが、真里はいわゆる美形に入る部類の人間だった。 それこそ、隆が劣等感を感じてしまう程度には。 (惚れた弱みを抜きにしても、真里君って綺麗な顔してるんだよな) お昼休みに呼び出しと言えば告白しかない!そんなの誰が言いだしたのだろうか。 勘違いとモヤモヤを抱えたまま、お昼休み終了ギリギリに学食へやってきた真里に隆は恐る恐る訊ねる事にした。 「よ、色男。なんて返事したんだよ〜」 「返事ってなんの事?俺、先生に委員会の資料渡されてたんだけど」 月見うどんを急いですすりながら、真里は飄々と告げる。 なんだ、勘違いだったのか……。 良かったような悪かったような、いや、片思いをしている側には良かったに違いないのだが。 それにしても、やはり真里はモテている。 まだ再会する前の時、廊下で噂をされている時も感じたが、彼は人を引きつける魅力がある。 まだ入学して少ししか経っていない時に、忘れていたがレベルの高い女子が多いこの学校の生徒に注目されるのだ。 もし好みの女子から告白されたら、健全なダンシコウコウセイならOKを出すに違いないのだ。 −自分の知らない女子と、仲睦まじく過ごす真里− それは、少し考えただけでも嫌だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |