モンロー効果 秘密 一度味わってしまった感動は、流れる風のように心の中を浸食する。 それはまるで、モンロー効果さながらの心の浮かび様だった。 「同級生 好きになっては いけない……検索」 モンロー効果をご存じだろうか。 高層ビルなどが並ぶ路上で、スカートがまくれあがるように風が吹き上げる現象の事を言うのだが、これはかの女優・マリリン=モンローが映画で見せたある場面が元になっているのだそうだ。 隆はインターネットの検索画面を前に、しばし困惑した。 どうやら最近の世間は同性の恋愛には大らかな傾向にあるようで、同年代の悩みを検索してみても、ちらほら見受けられるものだった。 それを見たところで、ポジティブに考えられる訳でもないが。 (でも結果的には、一過性の感情だから深く考えなくていいのか) 悩んでいる人の多くは、高校を卒業すると同時に自分の感情に決着をつける事ができているようだ。 何度も言うように、隆は元来、考えるより行動するタイプの人間である。 だからこそ、無気力でもしたいように生きてこられたのだ。 そんな矢先、真里からメールで提案された事は、隆自身にとってねがってもないチャンスだった。 「どうせなら、昼飯一緒に食べる?」 何がどうせ、なのかは真里にしかわからない。 そもそも隆には真里の考えている事はほとんどわからないのだ。 分かった気がしていても、それが本当に合っているかも分からないのだから。 「クラスメイトと一緒に食べたりしてないでしょ?」 返事をするが早いか同時に届いたメールは追撃のようだった。 委員会の用事でもない限りついでに真里を誘えない隆は通常の日常生活で話しかける事が難しい。 真里は真里で、予習復習に余念がないため、休み時間はほとんど廊下へでる事もない。 だからこそ、この真里の誘いは本人が許してくれたチャンスと受け取ってもいいはずだ。 弁当を持っている隆は、学食でランチを頼む真里に合わせて先に席をとっておく。 1週間もたたないうちに、それは自然な流れとして組み込まれた。 「真里君はさ、なんでいつも学食?」 「それを言うなら、逆になんで弁当?」 真里の言い分はこうだ。 学生のためにリーズナブルな価格で提供されるランチは学生のうちしか味わえない。 それならば今この時食べておかなければ損なのでは?と。 真里は時々、こうした謎の自分理論を展開する事があった。 妙に説得力のあるそれは、言いくるめられそうになる事もあるので油断ができない。さらに今は惚れた弱みもある。 「俺は自分の好きなやつ食べたいし断然弁当だな」 すると真里は、いつも通りのなんて事ない無表情で隆に返答した。 「まぁ、隆君料理おいしいもんね。結構好きな味付けだった」 (……これは、おいしいと誉められて喜んでいればいいのだろうか?) 割と、いやガチで喜んでいるのは確かなのだが。 この間からやけに世間の目が気になりつつある隆は、曖昧な返事をしてこの話を終わらせた。 お昼を一緒にとるようになってからというもの、隆はなんとなくBクラスに寄る事が違和感なくできるようになってきていた。 親戚である事への知名度があがったおかげか、廊下を歩いているだけでもBクラスの人が声をかけてくれるのだ。 これは隆にとって、良くも悪くもまわりまで変わり始めているのだと感じられる事だった。 その度に、何かにつけて思いつきに頼る事になってしまっていたが。 「教科書忘れちゃって」とあれば、「教科書返しにきた」と2回会うことができる。 ずるいようで真里の迷惑を全く考えないやり方だ。 嫌いになれるなら、もし仮にそんな薬があるなら今すぐ飲み干せる自信があった。 逆に真里に嫌われるという考えにいたらないあたりが、隆が自分に誇れる要素なのかも知れないが。 [*前へ][次へ#] [戻る] |