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モンロー効果

 最後の夜の事。前の2日は遊び倒したせいかその日は朝から2人ともぐったりしてしまっていた。
さらに言えば、次の日は月曜日。学校から近いとは言え、2人は登校しなければならないのだ。

夜の7時を回るか回らないかの時間。
どちらからともなく寝ようと宣言して布団に入ろうとしたのだが、ふと思いついて隆はリビングに毛布を運び出した。

「せっかくだし、お泊まり会っぽくしゃべりながら寝ようぜ」
「子供っぽいけど、たまには悪くないかな」

なんてツンデレみたいに返してくれる真里は、学校での鉄面皮ぶりからは想像もつかないくらい雄弁に語る表情をしていた−嬉しい、と。

 「真里って名前の由来、聞いた事ある?」
「パパの真一と、ママの里恵から一字ずつ」
「あー、よくあるよね。俺は特にないらしいから、そういうのちょっと憧れる」

二人の会話は、時々途切れながらも続いていた。
誕生日の話では、当然というか予想通りというか真里の方が先で8月、次いで隆が10月生まれである事が判明した。二人とも家で誕生日を祝うという風習とは無縁の家庭であったので、あまり膨らまない話題だったが。

とにもかくにも、文字ではないやりとりは、メールとはまた違った趣があった。
声に表情が乗る分、顔文字も何もない無表情に見えるものよりは、相手との距離間を感じにくいのだろうか。

「っていうか真里君、親の事ママパパって呼ぶんだな」
「えっこれっておかしいの?」
「いやっどうなんだろ……まぁおかしくはないかな。っていうか真里君もおかしいかどうか気になるのか」
「そりゃ人間だから、それなりに」

真里の返答は短いなりにも適度だ。
それこそ、メールとの文面のギャップがまるでない、素直な人間なのがわかるようだった。

 「真里君はさ、俺が入学する前から知ってたんだよな?」
「……」
「って寝るの早いな!まだ何も喋ってないんだけど!?」

確かに2日間寝食を惜しんで遊びつくした節はあるが、それにしてもこれには拍子抜けだった。

「まぁ楽しかったよ、ありがとう」

小さくお礼をしながら、手持ちぶさたになってしまった気持ちを誤魔化すかのように真里に再会してからの日々をそっと思い浮かべる隆。
何をするにも無気力だった自分が、こんなにも心を踊らせるようになれるなんて予想だにしていなかった。
変わりたいならきっかけを待つだけとは誰かが言っていた事があったが、まさか真里がそれになってくれるとは思わなかった。

(最初は負けたくないって気持ちだったけど、今はすごく大事な存在だ)

 そこまで考えて、ふとした事に思い当たった。
隆はパズルのピースがはまるような、気がついてはいけなかったあの感情に、とうとう気づいてしまった。

−真里は、本当にただの親友みたいな存在か?−
−仲良くなれたからって、そこまで入れ込むか?−

簡単すぎる答えだったが、一番ダメな答えだった。
そうだ、今まで異性が好きだったから反動で同性がよく見えるだけ。

寂しい感情を癒されたから、勘違いしているだけに違いない。
それに彼は親戚だ、だからこんな感情を持つわけがない。

しかし、こんな気持ちになるのは生まれて初めてだった。マリちゃんに初めて出会った時よりも。

(好きじゃない、好きじゃない。好きじゃない!)

このままでは、まるであの時クラスメイトが揶揄した通りじゃないだろうか。
まるで、恋をしているからBクラスに足しげく通っていただなんて。
そんな事があっていいはずがないのに。

(それでも、再会しなきゃ良かったと思わないのは)

間違いなく真里に好意を抱いているからこそ否定したくないという事なのだった。

「泊まり初日とかに気づかなくて良かった」

小声で一人言ちながら、隆は布団を目深にかぶった。
すると目の前はあっと言う間に闇夜に包まれて、余計な思案のいらない夢世界へと旅立たせてくれた。

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