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モンロー効果

 厳選な神聖なるジャンケンの結果、夕飯は隆が作る事となった。

腕によりをかけて、一番自信のあるカレーライスを作る事にした隆に、真里は意外な一言を投げかけた。

「俺、野菜苦手だから、入れるなら細かくして欲しい……」

その表情はあまりにも青ざめていて、本当にダメなのだという事がひしひしと伝わってきた。
隆は、サイボーグにも苦手なものがあるんだという事に一種の感動すら覚えた。

(野菜嫌いって、子供じゃないんだから!)

 隆のカレーの引き出しは、自分が飽きないために増やされた節がある。
キーマカレーにシーフードというオーソドックスなものから、野菜をミキサーにかけたものまである。

「それにしても、真里君が野菜ダメとはな」

ちょっとだけ笑いながらそう話しかける。
心なしか、壁のようなぎこちなさはもう感じられないような気がした。

「うん……でも、君の作るカレーなら俺、好きになれそうかも」
「マジ!?それならレシピ教えてやるから今度試してみて」

本当に嬉しい時、人間ははしゃいでしまうもので。
それは不可抗力なのだから仕方がない。
そしてさらに言うと、人の意外な欠点は、知れば知るほど楽しくなってくる。

「野菜というか根菜がダメなのかも。土っぽい味する」
「初めて食べたやつの洗いが足りなかったのかもな」

そんな会話が自然にできるようになって、真里も徐々にくつろげるようになってきたようだ。
重たい荷物に手をかけたかと思えば、その正体がついにベールを脱いだ。

「真里君、そ、それってもしかして……!?」
「そう、これは最新のプレイスステーションX」

まさか、そう思ってリュックサックに手をかけると、中身はUNO、百人一首、花札などなど……いわゆるゲームと呼ばれるアイテムがぎっしり積められていた。

「家事とかの便利グッズが入っているのかと思ってた」

そう隆が述べると、すかさず返ってきた言葉はNOだ。

「親の目のないところで好きなだけ遊べるんだから、もちろん君には朝までつきあってもらうよ」

誰だ真里がしっかりしてるっていった奴。
(真里君は、ゲームフリークというものなのか?)

なんだかんだと思っても、隆も普通のティーンエイジャー。
ゲームを前にして敵前逃亡などする訳がない。

コントローラーを手にした隆に、真里はほっとしたように口元を緩めた。
その顔に、もう無表情の陰はなかった。

「俺、いっつも家で一人でやってるから強いけどいい?」
「もうお前これからはウチくればいいだろうがー!」

親の目がないからこそ。
隆は思い切った発言もできる。
だって同世代と遊んだことがないのは自分も同じなのだ。
両親が働きに出ていて、一人だけの家でゲームに勤しむ真里を思うと、隆は嬉しくないはずが、なかった。

(真里君も俺と“同じ”なんだ……なんか、本当にもっと早く仲良くなれてたら、お互いにそんな思いしなかったのにな)

 白熱したゲームは多岐に渡る。
一昔前にブレイクしたパズルゲームを始め、有名RPGや、果てには体を使ったリズムゲームまであった。

そのほとんどが隆の惨敗であったことは言わずもがなだが、2日間は境目も曖昧なまま、あっという間にすぎていった。

そうして隆は知る事となるのだが、どうやら真里は無表情ではないようだった。

その証拠に、ゲーム中は隆や他の人物と大差ないように笑ったりむくれたりしていたし、何より素直に感情を言葉に出しているのだ。

(普段はうまく顔に出せないとでも言うのかね……)
また新たな親戚の一部の発見に、隆はひっそりと笑うのだった。

そうなのだ。野島真里は別にサイボーグでもなんでもなく、少し不器用なダンシコウコウセイなのだ。

自分しか知らない真里の一面を知ったような気がして、隆は嬉しかったのだ。
そこには、もうあと1日で終わりだという焦りもあったのかも知れないが。

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