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モンロー効果

 ビーフシチューを慣れた手つきでかきまぜるおたま。
隆の母は時々すくいあげては味見をしながら、先にゆでておいたブロッコリーを投下した。

隆は、先ほどの言葉に何かイヤな予感がした。
というか、当たらずとも遠からず、半分ほど分かってしまっていた。

「助っ人って、誰の、何の事……?」

ぎくりとぎこちなく訊ねる隆に、母親はなんともなく晩ご飯を盛りつけていく。朝昼の炊事は隆の、夕飯は母親の役目なのだ。

「あれ、もしかしてまだ聞いてなかった? マリちゃんよ」
「知ってた!」

否、正確には今知ったのだが。
そういえば今日の真里のメールはどこかソワソワしているような文面が多かった気がすると隆は回想する。

文字だけではわからないが、
「そういえば……いや、なんでもない」とか、
「金曜日……」とか、そういった物がやけに多かったのだ。

「それなら話は早いわね」

母曰く、金曜日の夕方から月曜日の朝までの数日間を、真里が泊まりにきて面倒みてくれるとの事だった。

「マリちゃんはご両親−まぁつまりはあちらの野島家が共働きでね、小さい頃から家事をやってたらしいのよ」

それはどうやら本当に幼い頃からの教育であったらしい。初対面の時、妙にしっかりした子だなと感じたのはそのおかげだったようだ。

「アンタ料理は出来るけど他はからっきしでしょう?
いい機会だから技術を盗んじゃいなさいよ!」

ケラケラ笑いを浮かべてビーフシチューを口に運ぶ母を前に、隆はいよいよぐうの音も出なかった。
確かに、あのサイボーグ野島真里を越えるためにはそれが一番手っとり早いのかも知れない。
とは言えいきなり泊まりに来るとは……。

とりあえず、客間と自分の部屋は念入りに片づけなければ、と隆は決意を堅くして、ビーフシチューを急いで飲み込んだのだった。

 あのマリちゃんが、泊まりにくる!

この日は火曜日だったが、ニュースはどんどんと隆の心をかけめぐり、早くこないかと胸を踊らせた。

(同世代とそういう遊びとかあんました事ないから、正直かなり緊張する……けど嬉しい、)

もはや真里は隆にとってなくてはならない大切な友人だった。
本当のところ、その感情はもう友人に向けるもの以上だったのだが、当人に自覚がない分どうしようもない事態だ。

 いわゆる楽しい事やイベントを設定すると、一日一日が長く感じるもので。
それはいつぞやに『隣のノジマ君』を教えてくれたクラスメイトの女子に心配される程だった。

「隆君、なんだか最近嬉しそう?だね〜」
「そう見えます?うんまぁちょっと、楽しみが出来てさ」

そこまで話して、ようやく隆は自分の中の違和感にはっきりと気がついた。見ない振りをしていただけでずっと分かってはいたのだが。

(なんか最近、オンナノコと話してても前よりはしゃいでないな……)

「話しやすくなったってみんな言ってたんだ!」
「えっ、それって本人に言っていいんすかね?」

うーんだめかな?
そう言って笑う彼女は今でも筆舌に尽くしがたいほどの魅力を秘めている。

そのはずが、さほどの興奮を覚えないとは。
もしかして、健全なダンシコウコウセイはちょっとずつ卒業してきているのかも知れない。

(……意外と大人になるってこういう事なのか)

全くの見当違いな発想をしながらも、隆は確かに自らの変化を自覚した。真里をきっかけに。

 その日廊下に発表された抜き打ちテストの結果は、もちろん真里が一位だったのだが、意外なところで隆も50番以内に食い込んでいた。

メールでの勉強は本当にたまにという具合だったのだが、その時の真里はといえば熱のこもった指導をしてくれていたように隆は思う。
的確なダメ出しと適切なアドバイス。アメとムチのバランス良いメールは、実力として隆の成績を伸ばしていた。

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