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 それからと言うもの、頼人が毎朝親友と電車に乗ると、途中でサラリーマンの彼が乗ってきて、自分のいた席を譲るという事が常になってきていた。

「和戸君、いつも悪いね」
「ドア付近の方が電波いいだけっすから」
「頼人最近よくチャットみたいなのしてるよね」
「あー、まぁな」

親友の言葉を軽くいなしてから、二人にそそくさと背を向けてスマートフォンを取り出す。
助けて欲しい時はいつでも、という相手の言葉に甘えて、頼人はアプリから田園にメッセージを飛ばす。

『君さ、親友が恋人といちゃついてるの目の前にして耐えられる?』
最近機種変更をしたばかりの頼人は、いまだにフリック入力にあたふたする時がある。

『おれは今までそういうのなかったから分からないな。どうしようこのまま30歳になったらおれ妖精になっちゃう』
だからこそ、こうした長文を一瞬で返してくる田園には素直に尊敬しそうになっていた。

『妖精て笑 何か今度一緒に出かけようとか言われてるんだよなぁ…』
『ならおれも入れてダブルデートにすればいいんじゃない?』
『は?』
断りたい方向に持っていく術を聞いているというのに、いったい何だってこの人は話をややこしくしようとするのか。
い、や、だ、と入力しようとした次の瞬間。

「何々、頼人も恋人連れてきてくれんの!?」
「それは楽しみですね」
突然、横から沸いてきた嬉しそうな言葉に絶句する事となる。
はっとして目線をそちらに向けてみれば、ご老人夫妻に席を譲ったらしい例の二人が笑顔でこちらを見つめてくる。
どうやら、丁度今の数行だけを見てしまっていたらしい。

「……いやぁ、ちょっと最近仲良くしてるだけで別に」
「なら尚更!!頼人の親友として僕もお知り合いになりたいしね」

親友、とそうはっきり断言されて、今までの頼人であればぬか喜びも出来たかも知れない。
しかし今では、親友以上の不動の地位を築いてしまった人がいる。
だからこそ、胃の奥を素手でつかまれたように苦しさが胸に沸き上がった。

「じゃあ今週の日曜日、僕の車でどこか行きましょうか」
「車持ってるんですか、凄いですね」
「まぁ趣味みたいなもので−」
そんな二人の会話をどこか遠くで聞きながら、頼人は早く当日すら終わって欲しいと切に願った。

 そうして迎えた当日。あの日以来文面でしかやりとりをしていなかったあの少年−田園トシキは、長めの髪の毛を後ろに一つにくくり、紫とグレーのボーダーが珍しい服装で待ち合わせ場所に現れた。

「何て言うか昼間に見ると、派手な髪だな」
「それは地毛なの?」
くるくると楽しそうに回ってみせる田園に、親友はどこか驚きを隠せない様子で見守っている。
そこへ男性が車でやってきて、一行はアウトレットモールへと向かう事になった。

「何このチョイス……」
「僕が新しい自転車見たいって言ったから、ごめんね」
「和戸君、良かったら煙草吸っていいですから」
「あっ、すんません失礼します」

胸ポケットから慣れた手つきで箱を取り出して、携帯灰皿の蓋も開ける。
すると真横に座った田園の視線が痛いほど突き刺さってきた。

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あきゅろす。
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