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 大魔法文明。それは世界的な発展をもたらした英知の結晶である。火を一つ起こすにも枯れ木をすり合わせたり暗幕とルーペを用いていた時代に条件を満たすだけで結果をもたらす方法の発見はまさしく奇跡だった。
そしてその盛り上がりは、新しいおもちゃを手に入れた子供のように無邪気で、長らく不可侵領域とされていた現象にさえ研究の手が進もうとしていた。
一度は国外へ追放され、今はシェルターの向こうで生きているのかすらも覚えられていない、所謂モンスターと呼ばれる部類の生命体。
遙か天に住まい、時に人に助言や力を貸したり、罪人に罰を下したり、兎に角自分にとって都合の良い解釈を持たれる上位の存在。
それらに対し、召還という聞こえは良くとも礼儀知らずな方法が使われだしたのだ。等言わば価交換。価値の等しい物を捧げる事でどこにいようとその姿を引き寄せる。
勿論そのままではただ連れて来られただけの獣であれば意に反して暴れる事だろう。そこでさらなる対価を差し出して契約し、一定の期間使役する職までもが表れるようになった。
 翼人と学名のつけられたヒト科の突然変異体も、そんなずさんな召還術に巻き込まれた悲しい種族だった。
科学が勢力を伸ばしかけていた頃、空を自由に飛びたいと考えた学者により、羽根を持つ生物の遺伝子から生み出された亜人。
結果的に怪物と後ろ指を差され捨てられた後は、各地を転々としながら細々と雀の涙を稼いでいた。
 そんな矢先に、強引に呼び出されれば誰だって頭に血が上らずにはいられまい。強い光に包まれたと思いきや降り立った場所は木・木・木。
雨に濡れた土の匂いを吸い込みながら周囲を見回すと、その場に似つかわしくない程の上等な服装を身に纏った初老の男がそこには立っていた。
「これはこれは!噂に違わず見事な翼をお持ちで−ご光臨頂き光栄でございます、ミスター」
深々とお辞儀をしては見せるがその実全く敬意を表情には乗せていない。その目は他人を食い物にしようとする悪意のある視線だ。
「ここがどこかはまぁどうでもいいが……アンタは誰だ。俺に何の用がある」
どんな要望を出されようと、相手に尻尾を振るつもりなど毛頭ない。
そんな態度でいたせいか。
「っぐ、あぁ……ッ」
視界が一気に逆転させられ、気づけば強制的に五体倒置されられる形に体制を変えられているではないか。
「口の聞き方には気をつけなさい。いくら温厚な私でもついカッとなっては何をするか分かりませんからね」
手を踏みつけ優越感に浸る声色で男は笑う。言い返してこない事に調子に乗ったらしく、そのまま少し興奮気味に続ける。
「私はこの国にクーデターをしかけたいと考えていましてね。是非貴方のお力添えをお願いしたいのです。嗚呼勿論、タダでなんて言いませんよ。−この程度で、如何かな?」
目の前が暗くなったのは、男が投げ捨てた上等な上着のせいだと音で判断する。
服を一つ買うにも苦労している民が世界にいる事を知っているからこそ、いくらこれが高級な絹糸を紡いでいようと腹が立つ。
男に表情を悟られないのを良い事に、僅かに動く指先で解析する。自分を取り囲んでいるのは捕獲を意味する魔法陣で、おまけに重力増加の呪文が追加されている少しやっかいな代物のようだ。−だが、敵ではない。今は目の前の男に教えなければならないのだ。
背中の翼を最大限押し広げ、仰け反ると同時に上着を投げ返して視界を奪う。怯んだ人間の魔法などもはや赤子の手を捻るより容易く壊す事が出来た。そうして袖を縛り上げるように首を押さえ込んでから、心臓をなぞるように手のひらを重ねる。
「熱ッ……な、何を!?」
「愚かな老害に良い事を教えてやるよ。俺が外の世界で、一体どうやって稼いでいたかを」
それはある国の魔女と懇ろになっていた頃に教えられた禁忌の魔術。心臓を抜き取るように優しく、初老の男を定義する幽体−つまり魂を、肉体から離脱させる。
「私が二人!?否、カラダから追い出された……?」
「自分の姿を客観的に見る気分はどうだ?って顔は覆われてるから見えないけどな。まぁ、己のデスマスクなんて気分の良いものじゃないからな、アンタラッキーなんじゃねぇか?」
笑いながら半透明の男に話しかけるが、もはや聞く耳持たず、何とかして元に戻れないかと触れもしない肉体に触れるばかりだ。
「無理だって言うのに、アンタもう死んでるんだぜ?−という訳でそれじゃあ、イタダキマス」
一応両手を合わせて頭を下げる。味は悪そうだが立腹した気分を下げる程度には満たしてくれる筈だ。痛みもないまま背中にかぶりつかれ男は悲鳴をあげる。今更謝罪をしようがもう何もかもが遅いのだ。
恨むなら、ただ羽根が生えただけのヒトを怪物扱いし、ろくに調べもせずに呼び出した自分を恨んでくれ、と他人事のように咀嚼しながら考える。
だって翼人と呼ばれる自分の本職は、天使なんて生優しい物ではない。不要な人物の魂を食べて報酬を得る、暗殺者なのだから。

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あきゅろす。
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