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 (……似てる。オレがあいつに対して向けている目と)
目の前にいる自分ではない、誰かを真に想っている目。それは間違いなく、頼人が親友に抱いている、友愛以上の好意と同じものだった。

勘弁して欲しいと思った。
ただでさえ大学で知り合った親友に不毛な片思いを背負わされて、身勝手にも毎朝隣の席をキープして実りのないアプローチを繰り返してきているというのに。
四六時中一緒に居て、笑ったり楽しんだりと感情を共有しあってい自分よりも、たかが一日数十分同じ電車に乗り合わせただけのサラリーマンが、横からかっさろうとしていく。
そして今、いない時ですら彼の心に触れようとしているのだ。

「悪いっすけど、伝えられません」
「え……」
「見ず知らずの人に軽々しくそんなん言われても、あいつも気持ち悪くなるだけだと思いますんで」

それではと乱暴に鞄を抱えて、まだの筈なのに無理矢理に3つ前の駅で降りる。
頭の片隅で教授が怒っているような気がしたが、このむしゃくしゃした思いを抱えて勉強など出来る気がしないのだ。
(よく水分取れよ、と)
インターネットのSNSを通じて、親友に労りのメッセージを送信しておく。
明日は来てくれよ。お前がいないとつまらないんだから。

 そんな頼人の祈りが通じてか、翌日親友は何事もなかったかのように三鷹駅のホームに顔を出した。
元々あまり健康的ではない方なのだと自称してはいるが、人に心配をかけるくらいならもっと自己管理をするべきだと頼人は軽く叱る。

「ま、まぁお前が必要ってんなら、オレが管理してやってもいいけどよ」
「うーん、今日はあのサラリーマン、いないんだね」
「オレの話聞いて!?……そう、みたいだな」

自分でも白々しいと思いながら、頼人は辺りを見回す。昨日あんな事を言われたのだ。
いくらあの男性が出来た大人だとしてもいい気はしないであろうし、乗り換えの時間を変えたのかも知れない。

「頼人……僕昨日も会えなかったのに今日もなんて寂しいよ」
「何、今日はばかに素直なんだな」

いつもは否定する癖に。言外にそう含ませると、親友は肯定するように小さく頷く。
昨日本当は、と何度も口をついてでそうになったが、それは同時に自分が突っぱねてしまった事も明かさなければいけなくなる。
自分の首は絞める訳にはいかない、それでも親友が本気でその想いを成就させたいのであれば−。

「分かった。協力する」
そう呟いた頼人を、彼がどんなに嬉しそうな目で見つめていた事か。
帰りのシミュレーションをしている頼人には知る由もなかった。

 午後8時42分。平日の水道橋の駅はそこそこの賑わいに包まれている。
中学生の頃初めて出来た彼女にせがまれて遊園地に一度きたきりだった頼人は、上り線のホームで腕組みをして待ちかまえていた。

「君はいつもの」
「あ、昨日は、その……すみませんでした」

丁度三鷹駅行きから降りてきたサラリーマンを前に、頼人は開口一番に謝罪する。
すると相手は、困ったように眉根を下げながらいやいやと首を振った。

「事実だから気にしないで」
「いや!違う、んです……あいつは本当は」
「あの子が何だって?」

親友の事を出した途端、急激に彼は肩口に手を置いてきた。

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あきゅろす。
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