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?日目
 「ッその必要はありません……今日だって僕、あなたを守れましたでしょう?」

髪をかきあげる途中のまま、彼は指の間から私を見つめてくる。
本当に、1週間前までは自分の力を恨むほどの『ただの人』だった筈なのに。

今では彼は、私の為になら命を投げ捨てられるくらい容易く選んでしまうのだ。
だから、いくら私が危険な目に遭おうと、構わない。必ず取り返せる自信がある。そう断言していた。

「では清水君―私を一生守り続けてくれますか?」
片手を差し伸べて、いつかの物語でお姫様が言っていたセリフを尋ねれば。

いそいそと跪いた彼が、その手の甲にキスを落として、“勿論です”と心酔するように呟いた。
少し力が強すぎるくらいの普通の人を、この私が、怪物に変えてしまった。
その事実が、恐怖と同時にどこまでも深い愛情を抱かせた。

 ―それから数か月。私と彼は相も変わらず荒稼ぎを続けて、今では立派なタワーマンションの最上階を軽く購入できるまでになってしまっていた。
最初こそ見慣れなかった外の世界も、蓋を開ければ広く続いていて。
一面の窓からは、その全てを一望する事が出来る。

「手も届かない存在になってしまえば、狙われる心配もない……ってね」
「っそれ、僕が前に言ってたっ……っ」

うっかり回想してしまっていては、組み敷いた彼が退屈そうにこちらを振り向く。
全く、私は彼と違って体力がないのだから、一度の行為だってじっくりと味わいたいのに。

「お待たせ、しましたっ動き、ま、すねっ」
「っひぅ、いき、いきなりっぅ、あ、あああっ……!」

繋がったままの彼に腰を揺らせば、浅い息を繰り返して清水は首を振る。
普段はきっちり七三に分けられた髪も、ところどころ乱れていやらしさを増幅させる。

 「っあ、は、気持ちいい?清水、っ、こういうの好きだ、なっ」
「っは、あ、あんっ…、ひ、い、言わない、で、っ……」
「知ってる知っ、てる。言われるとっ、もっと好きになっちゃうから、って、」

言葉責めも、すっかり彼がハマってしまったプレイの一つ。
いやいやと首を振りながらもその身に余る力を使おうともしないのが、その確固たる証だ。
ふと窓の外へ目を向ければ、カーテンが開け広げられた夜景が目に映る。
見られてしまうかも知れないという緊張感も、吊り橋効果で興奮が高まる。

こうして広い部屋に二人だけで抱き合っていると、まさしく世界から取り残されたような、そんな気持ちになった。
でもそれは、決して悲しい事ではないのだ。

 もう一回と望む彼に諦めてもらう為風呂に押し込んで、キッチンへと向かう。
そこには二人分の食事には似つかわしくない、ファストフードの髪袋が並べられている。

これは、外に出て最初に彼と食べた、私の唯一の好物だ。

毒々しい鮮やかな赤いケチャップが、私が力を使う時に光る眼の色のようで綺麗と彼が褒めていたからか。
勿論、清水が調理器具を損壊しながら頑張って作ってくれる料理も好きだが。

「毎度毎度買い替えるよりは、二人とも好きな物にした方が、良いですよね」
苦笑して、湯気に包まれた彼が微笑みながらハンバーガーを頬張る姿を想像したら、幸せという言葉が頭をよぎる。

実感した事はなかったが、そうか、これがその感情なのか。
二人だけの世界で、私は人生初の幸福を手に入れた。

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