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七日目
 シズクさん、そう呼べば彼は朝露のようにきらきら輝く髪を揺らして頷いてくれる。
その表情の全ては、いつだって僕の為のプレゼントだった。
そして彼は、名前のお礼と称して、自分の力を使う決心をしていたのだ。

 「―ギャンブル、ですか?」
「そうです。私の持つ能力と言うのは、相手が勝手に負けてしまう物だというのはお伝えしましたね? それは何も、日常的に使えないという訳ではないと思うんです」
「そこで、賭け事の席に同席して、僕の敵対する相手に負けて貰うと」
「はい。早く稼げる一番良い案ではないですか?」
「そうかも知れませんが……」

正直な所、僕は彼の案が一番良いとは思えなかった。
しかし、否定すれば嫌われてしまうのではないか、そんな考えがよぎって心の声は奥にしまいこまれてしまう。

 最初こそとんとん拍子にうまくいくというのが、ビギナーズラックというもので。
しばらく勝ちが続いていくにつれて、僕達は怪しまれるようになった。

「今宵はこれでお開きという事で」
ディーラーが店じまいを告げれば、僕はハッと息を飲む。
あまりにも没頭するあまり、勝ちに稼ぎにこだわるあまり、大切なあの人の事が頭から抜け落ちて―近くにいない事に戦慄した。

僕が心配していたその理由に“彼はどうしても人を惹きつける”というものがあった。
目を奪われる姿、唯一無二の力。僕が惚れるのも当たり前の事であるし、何より他の人が気づかない訳がない。
神経を研ぎ澄ませて、シズクの気配を辿る。
―ガタリ、と遠くの扉の向こうでもつれるような音と、ささやかな抵抗する声が聞こえる。

 冷静になればなる程、自分でもタガが外れたように体が動いてしまうのが分かる。
重厚感のある扉を片足で蹴り外し、一瞬でその場を視認して、右手と左手をクロスさせるように突っ込んだ。

「清水君、やめろ」
「君、一体なんなんだ―」

そして、右手側にだけ全力をこめて、大切なシズクに触れたゴミ虫を断罪する。
壁に軽々と弾け飛んだその者は、がくりとうなだれたまま動かない。
さぁ、あと一撃。そう思って進もうとすれば、そのままにしていた左手に彼が必死に抱き着いた。

「もういい!!いいから、帰りましょう」
「……わかり、ました」

彼の青ざめた表情を一目見た瞬間、自分が何をしようとしていたのか気づかされた。
この人にこんな顔をさせてしまうのでは、本当に怪物ではないか。

 ホテルに到着するや否や、シズクはようやく解放されたかのように溜息を吐いた。

「イカサマを疑われて、着いて行ったらあんな事に……心配をかけてしまって、すみません」
「僕はずっと、反対だったんです―本当はあなたにここから出てほしくないくらい」

しまった。言うつもりのなかった本音がこぼれた。
走ってきたせいですっかり乱れてしまった髪をかき上げるように後ろに撫でれば、想像以上に眉間にしわが寄っている事に初めて気づいた。

「あなたを苦しめてしまうのなら、私を、あの家のように閉じ込めても良いのですよ。あなたには私の自由を奪う権利がありますから」

そして、彼の口から何ともなしに放たれた言葉に―そんな事はあり得ない、と今度は僕が溜息を吐き出したくなった。

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あきゅろす。
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