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五日目
 閉じ込められているせいで、きっと初めてまとも会話した自分に刷り込み効果で好意を抱いてしまっているのだ。可哀想な神様。

そう思いながらも、僕は廊下を歩く鼓動が早鐘を打ってしまうのを止める事は出来ない。きっとそれを言えば、彼は納得してしまう程。それ程までに聡いから。

せっかく手に入る至高の日を、僕は自分から捨てられるような人間ではない。

ただ、彼は僕が命を絶ちたいと思うほどの苦渋を味わわされたこの屋敷を、滅ぼすためなら怪物になっても構わないとすら思ってくれているのだ。
彼の気持ちに応えられるなら―僕に何が出来るだろうか。
きっと僕にしか叶えられない事といえば、彼に外の世界を見せてあげる事だろうか。

 そう言えば、昨夜彼はふとこんな事を言っていた。

“もしも私が囚われの姫なら、私をさらって、なんて言うんでしょうね”

あの人は綺麗だ。それが屋敷の誰かに知られれば、きっとこの先僕のような誰かの侵入を許す事だろう。
そんな事は、一切させない。何人たりとも触れさせないようにするなら、僕だって怪物になれる。

そこに思い至った瞬間、僕は蔵に仕舞われたままの刀を手にしていた。
恐ろしいほどに頭が冴えて、次々と屋敷中の人物を倒していく。
命は奪わない。ただ少しの間―僕と彼がここを発つまでの間に眠っておいてもらうだけだ。

「清水、お前はもっと広い世界を見た方が良い」
「お坊ちゃん、このような形で裏切る事となりお許しください」
峰打ちを一つ。そうすればいくら偉そうなお金持ちの子であろうとただの人である事がわかる。

 夜になるよりも早く訪れた僕に、彼は驚いて目を見開いた。
そして、初めてみる刀に口を一文字に結んだ。

「私は刀なぞなくとも殺せますよ」
「あっ違、違うんです……これはその、あなたを守る為で」

慌てて首を振る僕に、彼は全く持って分からないという様子で次の言葉を待つ。

「……っあなたは昨日、僕に一世一代の愛をくれました」
「少し恥ずかしかったですけどね。これが照れる感情だと思うと嬉しいですよ」
「僕はずっと、この屋敷にきてからも体力おばけなんて揶揄されて、自分を鍛えた事、ずっと後悔していました」
「でもそれは、私にとって素晴らしい力だと思います」
「ありがとうございます。僕は、そんなあなたに救われたんです。す、好きに、なったんです」

僕がそう言った瞬間、彼の白い肌がやんわりと桃色に染まった気がした。
そういえば、行為中以外では、自分の気持ちを話したのはこれが初めてだった。

 「だから僕も―あなたと一緒に怪物になります。ここを出ましょう」

差し伸べた手ごと体を引き寄せられて、そのまま一度ベッドに着地する。
甘く口付けをしたあと、彼は一層愛おしそうに、僕の名前を呼んだ。
手つきも言葉も荒々しいのに、僕を抱く彼のまつげも髪の毛も、変わりなく銀に煌めいている。
そのミスマッチ加減が色気となって、僕は虜にされ続けてしまう。

役立たずで終わる筈だったこの僕の人生が、彼を守る事で意味を持つのなら、いくらだって差し出す事が出来る。

そんな事を絶対打ち明けるつもりはないけれど、彼は僕の手をとってくれた。

広い外の世界が、彼にとって素敵な物となってくれますように。
そう祈りながら、二人で窓枠を蹴って飛び出した。

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