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四日目
 「っはぁ、清水指噛むなっ…あー、こっち、俺の肩に手かけて」
思わず荒々しい口調になってしまう程、初めて抱く人の間隔は途方もない感動を私に与えた。
一体どこにこんな衝動があったのだろうか。彼を手に入れたいと焦るあまり行動に移してしまった私の事を、清水は受け入れてくれたのだ。

 お互い果てた後は、何も言えなくなってしまって、でもそれでもどちらかともなく狭いベッドの中で抱きしめあっていた。
口には出してないが、きっともう私の気持ちは彼に伝わっているのだろう。
それに応えたいとでも思っているのか、清水は健気にも私の腰に手を回すのだ。

「清水、君。恐らく私はあなたに一目惚れをしてしまったようです」
「……嬉しい、です。これまで僕の声に耳を傾けてくれる人なんかいなかった、から」
「お聞きしても?」
 私の言葉に、彼はそっと口を開いた。

「この屋敷と僕が出会ったのは、僕が高校で進路を考えている時の事でした。初めは、交通事故だったんです」
「交通事故?」

聞き返せば、彼は続ける。この家の主が乗った黒塗りの車が、彼を撥ねん勢いで突っ込んだが、彼は咄嗟に掌底を繰り出してしまい、逆に車が大破してしまったのだと。
常人であればあり得ない事だろうが、あの鉄格子をいともたやすく壊せる光景を思えば納得がいく。

「そもそも、何故あなたはそんなに強いのですか?」
「僕には身寄りも友達もいなくて……後見人の方が格闘技の師範代をしていたので、孤独を乗り越えたいと毎日鍛えていたら、いつの間にか」
「不思議な事も、あるんですね」
そうとしか、返事が出来なかった。彼の努力を思えばこそ、何も言いようがない。

 そんな私の表情を案じてか、今度は清水が私に尋ねる番だった。
「あの、あなたは……何故このような場所に」
「私の家族というべき一族は、もとは山奥でひっそりと暮らす仙人のようなモノだったようです」
「ようですって事は―」
「はい、私は生まれながらにして引き離され、この豪邸に連れてこられたらしいんです」

この、忌まわしい能力を持っていたが故に。

そう言うと、彼は言葉を選ぶかのように視線をさまよわせて、そっと首を振った。

「でもその能力はご家族との絆や縁の証とも言えますよ」
励ましたいのか一生懸命に紡がれた言葉が、私の心にストンと矢を放つ。
「そう、ですね……ここにいたからこそ、あなたに出逢う事が出来ましたし」

そう言って彼の額にキスを落とせば、身じろぎながらも彼は頷く。

 翌日も、彼と私はお互いの心の溝を埋めるかのように体を合わせた。

「あなたは私の事を、神様と呼んでくれますね」
「―普通の人だとも、思っていますがね。でも、僕を必要としてくれるなら、きっと神より尊い存在です、あなた様は」

照れくさそうに笑って、彼は鉄格子を元に戻しながら帰っていく。
去り際、隙間から手を伸ばして彼を一瞬だけ引き止めれば、私はずっと考えていた事を告げる。

「清水君。私の持つ能力は、敵と見なしたものを勝手に負けさせるようなモノです」
「は、はい」
「出来れば使いたくない、そう思っていましたが……あなたの為なら、怪物と呼ばれようと構いません」
「何を言ってるんですか」
「この屋敷が、愛しいあなたに苦しみを与えるのなら、って事ですよ」
「ご、ご冗談を……」

焦る表情の彼は、私の眼を見つめて息を飲む。きっと人生最初で最後の、本気の告白だった。

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