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三日目
「でも、僕もうすぐお役御免なんです」
「そうですか……では、また明日来てください。お会いできるのを楽しみにしてます」
神様は、僕にそう笑いかけてくれた。
久しくなかった自分を求められる感覚に、僕の心は歓喜に打ち震えた。
その日はろくに眠れなかったのに、もう何日もない内にここを発たなければならないのに、そんな事など気にもならないくらい仕事に精が出る。
「清水、そんなに辞められるのが嬉しいのか」
「いえ、そんな事は一切ありませんが……」
「いつもそうやってニヤニヤしてれば、まだマシだと思うけど」
お坊ちゃんは一人で服を着替えながら床を磨く僕を蔑んだ目で見つめてくる。
いつもなら自分の駄目さ加減に涙が浮かんでしまうような現状だが、今日は気にならない。
昨夜、意を決して飛び込んだ檻は、正直な所拍子抜けの連続だった。
神様が祭られているというのだから、本堂のような仰々しい物を想像していたが、コンクリートの壁の中にベッドと机と椅子、それから何冊かの本だけ。
当人である座敷童子その方も、おかっぱ姿の子供のイメージからは大きくかけ離れ、全体的に色素の薄い存在だった。
銀色の髪に、ビー玉のような透明感のあるミスティックトパーズのような瞳は、まるで人形のようにきらきらと輝いて見えた。
それでも、畏怖を覚えなければいけないような雰囲気もなく、ただ見た目こそ美しけれど一人の人間がそこに居たのだ。
だから、落胆してしまう気持ちがないと言えば嘘になる。
しかも、彼は僕を見ず知らずの人、と言い放った。
これでも高校卒業からずっとこの家に仕えてきているから、悪名でも末端まで知られているとたかをくくっていたのだ。
こんな自分でも彼は必要としてくれるのだ。それには応えたい。
そう思って、僕は人気も寝静まった深夜1時過ぎに、再びあの長い廊下を一人進んでいた。
昨日曲げた筈の鉄格子は、特に話題にもされていなかったから、恐らく自分ではない誰かが直したのだろう。
その期待を裏切らず、昨日を繰り返すかのように鉄格子は地面から垂直に刺さっていた。だから自分も、不躾に檻を捻じ曲げる。
「こんばんは、神様」
「清水君、お待ちしていましたよ」
僕の姿を確認するや否や、彼はベッドの中から手招きしてくる。
何か面白い本でも読んでいたのだろうか。悪戯な表情を浮かべたまま彼は―徐に僕の顔を引き寄せた。
「は、ぁむっ……ん、っふ、っ……」
口づけをされている、そう気づいた時には上半身の身ぐるみも剥がされていた。
まさか、男の自分に彼は何を求めているというのか。
思わず離れようと身構えれば、必死そうな表情と目が合った。
「どうか否定しないでください。私はあなたが欲しい」
「な、なに、何をおっしゃって…ぅあぁっ!?」
首元から彼の手が下に降りて、胸元の飾りをいじられる。
困惑する頭の中では、欲しがられる事への喜びがじわじわと脳を侵していく感覚がした。
本当なら、こんな事は拒まなければいけない。
でも、もうどこにも行くあてのない僕は、彼になら全てを託しても良いのではないだろうか。
黙って抱き着いてきた僕に、彼はにやりと笑ってお礼を一つ言うと、そのまま覆いかぶさってきた。
「ぁっ、んんっ…やっ、はっ、あんっ…」
彼が丁寧に僕の体をまさぐる度に、敏感にとぎ済まされたように甘い痺れが襲いくる。
乳首も下も気持ちが良くて、いつも体裁を整えた話し方をしなければならないと教育を受けていた事すら軽く忘れてしまう。
「おか、おかしく、なるっ…あっそこ好き、あぁっ!!」
好きと言えば言う程、僕の中を貫く彼自身も大きく動く。そのなんとももどかしい間隔がはがゆくて、指を噛めば血が滲む。
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