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Short

 担任教師に補習授業へ遅刻する旨を電話連絡し、仕方がないと一時間だけ自宅へ招く。
母親は心配そうに見守りつつお茶菓子をだしたがっていたが、ここは男と男の正念場だといって辞退していただく事になった。

 外がいいからと言い張る宮崎に付き合い、庭に二人降り立てばそこはさながらあの神社のように広く感じられる。

「食らえ悪霊!鳳凰法力抑止力結界!!」
筆で達筆に描かれた文様の札を右手に、左手で空を切り咲いて宮崎は念仏を唱える。
「全然効かねぇぞ、次」
我ながら酷く辛辣な声色が出たものだと感心したくなるほどの演技力で返事をする。
すると宮崎は、一瞬だけ傷ついた表情をしながら、それでもまっすぐにこちらを見つめてきた。
「今日のこの日の為、儂はお主の事を色々調べさせて貰った……そして、治す術も用意してきたのだ」
「ハッ面白くなってきたじゃねぇか」
これ以上は本格的に楽しくなってしまって決心が鈍りそうではないか。
早く諦めてくれと切に思いながら、俺は宮崎の口八丁手八丁から繰り出される技を全てライフで受け止めた。

「ヘマタイトの契約よ!我が血盟に答えたまえ!!」
「……」
宮崎は、俺に縋りつくようにして何かをかけているそぶりを見せる。

「銀水晶の、鮮麗なる決壊において魔を絶つ!!」
「……はぁ」
力なく胸元に腕をたたきつけてきたかと思えば、俺のついた小さなため息で酷く怯えた表情をした。

「っく、宮崎謹製天鏡!!たぁっ!!……効かない、のか」
まるで土砂降りでも降っているかのように、宮崎は号泣していた。

「……儂だって楽しかったのだ。同じ意識を持つ者、年など関係なく接してくれる事、美味なるアイス……自分だけの思い出だなんて言わせぬぞ」
いや、もしかしたら本当にいつの間にか雨が降り出していたのかも知れない。でなければ今目の前が一瞬ぶれてしまった説明がつかないからだ。
袖口で強引に目尻を拭って、俺は足下にへたりこんだ宮崎の頭をぐしゃぐしゃになで回した。

「やめろ、やめぬかセットが乱れるわい」
「ハハッ、そうだなスマン……なぁ、お前は俺みたいになってくれるなよ」
年相応に落ち込んだ表情を見せる宮崎のその姿が、何だか無性に愛らしく見えて、その額にそっとキスを落とす。

「これは契りだ。この街で一番有名なミヤザキユウトの名前を、俺の代わりに守り抜いてくれ」
それが俺の、宮崎に託したかった望みだった。
元々俺が本来の意味で有名だった訳ではないのなら、ここまで本当に自分のなりたい姿を追求できる彼ならば、きっと自分とは違う道を選んでくれると信じて。

「ではこれを……儂の代わりだと思って証として持っておいて貰おうか」
宮崎が涙を拭いながら、さらに何かを取り出す。
まだ何かあるのか、と驚いていた俺だったが、その実物を見てさらに驚かされる事となった。

「これは俺が最初の頃に書いた絵馬じゃないか!?」
「そうじゃ、うちの神社では三ヶ月間祈祷を捧げた後炊き上げ供養をする決まりとなっているのだがな、これはお主本人が持っていた方が良いと思ってのう」
「ありがとう……」

お守りと同じ“合格祈願”と記され、横に頑張ってデザインしたオリジナルの魔法陣が描かれた絵馬を両手に持つと、原点回帰というか、百万力の力を得られるような気さえした。

「これは儂からの最後のまじないじゃ」
何を、と聞き返そうとした瞬間、絵馬を持つ腕ごと引き寄せられて、その手首にキスをされる。

「またいつか会うた時は、別の所にしてやろうぞ」
「顔真っ赤にして何言ってるんだか、でも期待してるぜ」
お互いに冗談だと分かっていながら、それでも夏の日差しよりも真っ赤な顔で手を振った。

 そして俺と宮崎は、同じ市内に住んでいながら、それから先十年という長い期間、二度と会う事はなかったのだった。

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あきゅろす。
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