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Short

 俺様が悪魔の右手(イビルライト)で選択したのはスイカ棒だった。
やはり闇夜の使いである俺様には槍や剣のような物がふさわしい。
そしてこのアイスは何より歯が折れるほどの固さで有名だった。

「少年はそんなやっすいので満足なのか」
「たかだか齢一つで調子に乗るでないぞ……いただきます」
文句を垂れるのかお礼を言うのかどちらかにして欲しい。
端から見ている分には相当面白い事になっているとは露知らず、宮崎は満面の笑みでシャリシャリ君にかぶりついた。

「この平たい形状がお札や延べ棒に似ておってな、好きなのじゃ」
「おう、それなら遠慮しないでどんどん食え」
「言われなくとも……ありがとうございます」
階段に座り込んで話した事など一度もなかったものだから、ついつい俺様も楽しくなってしまう。
年が違うだけでもこんなに構いたくなるものか。
これはこの宮崎少年自体の人なつこさが存分に影響しているように感じた。

 アイスが溶け終わる前に、どちらからともなく階段から立ち上がっていた。
かと言っていままでのように激しいバトルを繰り広げるに至るほどの激情もなく、どちらかと言えば友情のようなものすら、俺様は感じていた。

「アイスを食べあった儂らは、種族は違えど同じ杯を交わした仲……違うか?」
「いんや、相違ねぇよ」
「では……そなたの真名を聞いておこうか」

宮崎は握手をしようと言わんばかりに手を差し伸べてくる。
本来であれば、ここは俺様のデビルネームを答えるべきなのかも知れないが、それでも選択肢は別の道を選んだ。

「おれさ……俺は、宮崎悠斗だ。よろしくな」
「みやっ!?ざき……と、いうのだな、よろしく頼むぞ」
相手自信にも、相当な驚愕であったらしい。
それは確かにそうだ。ここ一週間ほど毎日暑くて熱い一戦を交えてきた相手がまさかの同じ名前を持つのだから。

(お前にだって相応のオドロキをして貰わないと釣り合わないだろう?)
しなだれかける宮崎の腕を無理矢理に掴んで握手を完成させる。
今まで名前を聞かれれば、あの口うるさいクラスメイト以外には『魔狼王ユートルシティルツキン』と名乗っていたのだが、まぁ名前などあってないようなものだ。
この少年に覚えておいて貰うなら、こちらの方が良いと思った。

 それからと言うもの、放課後になれば神社へ行き、アイスをおごってやる代わりに宮崎の説法まがいのトークショーを聞くことが、俺様の日課になりつつあった。
先日服装を注意された登校日は、八月の最終週にある。
つまりそれは、もうまもなく夏期休暇が終わりに近づこうとしている証だった。

「よっしゃ、初めて当たり引いたぜ」
「悠斗よ……キャラが抜けておるぞ?」
「おっといけねぇ、フッ、これくらい造作もなく獲得出来るぞい」
「お主は悪運が強いのじゃな。であればきっと願いも成就する事であろう」
「フン、だといいがな……」

捨て台詞のように言ってはいるが実際問題最近お参りはしていないのだから眉唾物だ。
勿論神様が叶えやすいような努力もしているつもりだが。

「ようし、不安そうなお主の為に儂がひと肌脱いでやろうぞ」
「って言ったって本当に脱ぐわけじゃ……」
笑いながら宮崎の方へと目線を向けてみれば、手製であろう、和装を模した上着を豪快に取っ払っている所だった。

「なぁに、いやらしい事などではないぞよ。少し良い物を見せてやるだけじゃ」
そのまま胸元に手をかける仕草のえも言われぬ色香に脳がぐわりと揺らがされる気がして片目を瞑る。

「全く、お主は考えすぎるのお……」
ほくそ笑みを浮かべながら、宮崎は襟元に触れ、首筋からするするとネックレスのチェーンを引っ張りあげたではないか。

「南京錠の鍵か?」
「左様。ほれ、そんな所に突っ立っておらんで儂について来ないか」
上着を慣れた手つきで拾い上げて宮崎は言う。
階段を最上段まで上がってからこちらを振り向くその姿に、夕日が眩しく照り返していた。
そうこうしているうちにどんどんと宮崎は先へ進んでいってしまう。
慌てて俺様は追いかけるが、一体何処へと誘おうというのか。

神社の境内を真横に通り過ぎて、木造の小屋らしき場所を抜ける。囲炉裏のような懐かしきいい匂いがたちこめる扉を押しあけると、そこには壮大な蔵が経っていた。

「今まで参拝をしてくれていた礼じゃ、好きなお守りを持っていって良いぞ」
「お前そんな特権があるのか」
「お?ないぞ?」
「えっ……」
もっと言えば、ここに入ると相当に怒られる。
おかしな事でも何でもないように宮崎があっけらかんと述べるものだから、俺様も一瞬納得しかけた。
しかし、それでは流石に不法侵入すぎやしないだろうか。


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あきゅろす。
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