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 結論から言おう、この事実はこの事態は俺様の人生ラグナロク史上最も過酷な運命なのではないかと思った。
超有名人である宮崎悠斗(ミヤザキユウト)は俺様の名前であって俺様にあらず。
そしてよりにもよって憎きあの少年に与えられた知名度だったのだ。

「仮に聞いておくが、そいつは何でそんな有名なのだ?」
「それがなぁ、根はいい奴だけど何でもすごい中二病らしいんだよ」
「俺様よりもか!?」

思わずクラスメイトの肩に手をおいて聞き返してしまう。そのまま揺さぶると面白いくらいに相手も脱力した。

「だってなりきる為に家の隣の神社で手伝いとかしちゃってるんだぜ?」
(ま、負けた……)

直感的に、手に持っていたままのピアスを握りこんでいた。
近所の場所を使うなど、そんなの、生まれた時に勝ちが決まっているようなものではないか。

「と言うかあの願い結局叶ってないではないか……」
「何か言ったか?」
混乱するクラスメイトを放って、俺様は一人ぶつぶつと廊下をさまよう。
これは今日の帰りも神社に寄って、お賽銭分は働いてくれと文句をつけなければ。

 夕方。終業のチャイムとともに部活動に入っていない俺様は学校を抜け出す。
夕日に照らされる長ったらしい階段を前に、蝉の声がしんと止んだ。
決着をつけるにはぴったりのシチュエーションになってきたと歓喜したのもつかの間、階段の途中に少年−宮崎悠斗その人が立っているのが見えた。

「よくノコノコと現れたな、超有名人のミヤユウ君」
「ふん、ミヤザキユウトとは仮初めの姿よ」
「じゃあ真の姿は何て言うんだ?」
「それはまだ誰も知らない……」
「考えてないのかよ」

どうでも良い情報ばかり教えてくれるクラスメイトが、彼が一つ年下だと言っていた。
であればつまり中学二年生、なるほど、この大がかりな設定もよく似合う年齢ではないか。

(それなら、俺様が勝てないのも頷けるかも知れないな)
手にしたままのピアスを左耳に付け直していたら、いくらか諦めもついてきた気がする。
ポケットにねじ込んでいたお賽銭を指先で数えながら、俺様は宮崎に提案した。

「オイ少年、アイスでも食うか?」
「少年ではない。……今なんと申した!?」
きらきらと輝き出す瞳はまさしく少年のものと相違ないというのに何を否定する事があろうか。
茹だるような暑さの夏には、どんな人だってアイスが一番なのだ。

 「お主、その……小銭は別の用途があったのではないか?」
「もういいんだから気にすんなって、ほら、好きなの選べ」
駄菓子やの氷菓ケースを前に、宮崎は嬉しそうな表情と複雑そうな表情を交互にする。
忙しそうな奴だな、こいつならきっと、俺様の望みも聞いてくれそうだな、と思った。

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あきゅろす。
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