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 突然ですが、ミヤザキユウトをご存じだろうか。
この街で一番の問題児にして有名人。
珍しい髪色に素っ頓狂な性格と言えば間違いなくこの俺様の事を差しているに違いない。
中学一年の春、この神社の絵馬に「みんなから噂されたい」と願ったのも今では懐かしい話だ。
先日の少年は、縁結びの神社だとか何だとか言ってはいたが、この願いを叶えてくれたのだから、きっと今回の願いだって叶えてくれると俺様は信じている。

「だから今日も来てはみたのだが……昨日のバタフライ・エフェクト(絵馬)が闇に葬り去られたか」
そういえばおせっかいなクラスメイトが、最近では個人情報の観念から一日くらいで絵馬やお神籤が回収されるところもあると聞いたのを思い出す。
いつぞや呪われし映像特番で見た絵馬の隙間からのぞき込む人影のホラー映像も、きっと近くない将来見られなくなるのだろうか。

 本日の気温は34度。暑がりならばとっくに音をあげているような暑さだが、地獄の冷気をまとう俺様には余裕で耐えられる。
今日は人目に付かなくなるミラージュマントも装備しているからな。

お賽銭を投じて、二礼二拍手一礼。
もしかしたら間違っている可能性も高いが、俺様の現世での年齢は未だ幼い。これくらいは許される事だろうと念を込めた。

「ムッ、お主は昨日の魔狼ではないか」
「見られてない見られてない……これは通販で買ったミラージュマントなんだからな……」
ぶつぶつと自己暗示をかけていようが、声をかけられてしまった物は仕方がない。
マントを翻すようにしてわざとらしく後ろを振り向くと、果たしてそこには既に見知った紫髪がいたのである。

「やはり貴殿は俺様が視えるようだな」
「おうとも。儂にはそのチンケな小細工もスケスケの丸見えじゃて」
白砂の扇を口元へやって、少年は存分にこちらをあざ笑う。
昨日の棒−大幣というらしい、ちゃんと俺様は調べた−を持っていない様子の彼に、少しだけほっと胸をなで下ろして、俺様は左耳のピアスに触れた。

「邪界の使徒が神頼みとは笑わせてくれる……どれ、儂が今日も祓ってやろうかのう」
「いいぜ、そっちがその気ならこっちだってやってやる」
二人が対峙すると、まるで本当に何らかの力が働いているかのごとく烈風が吹き荒れ、誰も触れていない筈の鈴が鳴った。
そうして合間見えた決闘(デュエル)だったが、結果として俺様は再び敗北を喫する羽目になる。

「チッなかなかやるじゃねぇか……!」
「お主も相当やり手と見える。どうじゃ、また後日出直しては」
「言われなくともそうしてやらぁ!」
おそらく自分よりも一つくらいは年下であろう少年にここまでこてんぱんにされようとは。な、泣いてなどいないぞ。

 翌日の事。例の如く服装の事で教師に呼び出しを食らった俺様は、次の試験でもトップの成績を残す事を無理矢理約束づけて、ピアスだけは外す事にした。
職員室から出ると、偶然にもおせっかいなクラスメイトと遭遇する。
彼はしばしば、空のオーケストラに俺様を誘ってくれるのだ。

「悠斗最近付き合い悪いじゃん、放課後何かあるん?」
「敵対する陽光の社へ決闘にな」
「神社にお参りか〜って事はあの階段登った所にあるやつ?」
「ククク……あの心臓破りの段は俺様にしか上れまい」
「そうだな、お前とミヤザキユウトくらいだよな」
「そうだ……俺様だ」
「あっ違う違う、お前じゃない方の」
「ホワッツ!?」

クラスメイトは『そういえば同姓同名だったよな』と笑いながら説明をしてくる。
「紫色の髪した宮崎って奴がいるんだよ。会った事ない?」

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