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Short

 この夏で最後にしようと思っていた。
九月になって誕生日を迎えることになったら、知り合いの美容師に頼んで脱色して貰ってアシンメトリーに切り分けたこの髪型ともお別れだ。
もろもろの願掛けを一つの神様にお願いするのはオーバーワークなような気もしていたが、それでも何かに縋りつかずにはいられなかった。

「フッ、我が英知の銀貨からなる神聖な一滴をその身に受けるが良い」
財布から五十円玉を取り出して、俺様は賽銭箱へと一石を投じる。
鈴を鳴らして頭を下げると、目を閉じる間際に片側だけ伸びた前髪が見えた。

「この景色を目に焼き付けておいてやろう」
ククク、とわざとらしく声に出して笑えば、
人っ子一人気配もない神社も少しは賑わうというものだ。
それにしても、俺様に似合うからといってこの夏にロングコートは少々体力的にも辛いものがある。
用意した絵馬に金星のシンボルマーク(自作)を描きながら、明日来るときは世を忍ぶ仮の姿にでも変身するとしよう、と考えた。

(俺様は吸血鬼にして偉大な狼の血をひく金星の大魔法使いなのだからな。
人間にそうやすやすと見られては困るのだ)
とは言え俺様は明日も明後日も、願掛けをするためにこの神社へこなければならない。
俺様のせいで怪しまれたと難癖をつけられるのも癪なので、仕方がなくこの漆黒のロングコートを脱がざるを得ない。

「叶うまで繰り返せば願い事は叶うのだよ」
「……此処は縁結びの社じゃが」
「ハゥッッッ!?」

ああやっと少しは風の一つでも浴びられるのだと笑みを浮かべながらコートに手をかけていたというのに。
突如として耳に届いた声に一瞬で現実へと連れ戻されてしまう。

「な、何者だ……姿を表せ!!まさか陽からの刺客か!?」
飛び出しかけた心臓に手をやり、つとめて冷静に返事をする。

「何じゃキョロキョロと当たりを見回しおって……ほれ、こっちじゃ」
口調こそは尊厳のありそうな大層なものであるが、随分と若々しい声色だ。
声のする方向へとそのまま目を向けてみれば、自分よりも頭一つ分小さい少年が立っていた。

 瞬間、ざあっと風向きが変わるように木々がわめいた。
俺様の長い前髪も持ち上がり−目の前の人物の、高貴なる紫色も優しく上下した。

「神風が騒ぎだしおったわい。何じゃそなた、良からぬ気をもっておるな?」
「神風……だと!? まさか第十七次魔界対戦が始まると言うのか!」
「まぁそう焦るでない。どれ、ここは儂が一つ祓ってしんぜようではないか」

紫髪の少年は、含み笑いを浮かべて胸元の名称がよく分からない棒を取り出した。
白い紙のついた、よく宮司さんとかが持っていそうなアイテムだ。
クソ、和風の物はあまり詳しくないからな、俺様はあとで調べておかなければと決心しながら、右耳のピアスにそっと触れた。

「いいのか。それ以上俺様に近づくと、地獄の炎職人(フレイムワークス)が召還されてしまうぞ?」
「横文字は分からん。だが、そう簡単に見くびられてもな」
な、の発音と同時にそいつは一気に間合いをつめてきた。
もしかすると、本気で危ないかも知れない。俺様は少しだけ後悔をしながら目を瞑った。

 しかし……意外にも攻撃が向かってくる事はなく。
額に何かを乗せられる感触がして、恐る恐る目をあける事にした。

「何だこれは」
「儂のまじないが込められたありがたいお札よ」
「こんなモノで俺様を止められるとでも?」
「やってみないと分からないであろう?」

長い袖口を口元へやり不適に笑う表情は、まだあどけなさの残る少年そのものだと言うのに。

「クツ……今日の所はここまでにしておいてやる!」
どうしてか負けたような気がして、引き下がざるを得なくなってしまった。
神社の鳥居を背にして、ふと先ほどの人物を思い出す。

(綺麗な目の色だったな……あんなカラコン売っているのか)
今度調べてみようと思いながら、俺様は足下の階段を蹴りだした。

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