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 今日が午前上がりの日で良かった。もっと言えば、サークルの活動がなくて助かった。
そう思いながら、頼人は取り急ぎ自分がいつも密かに煙草を吸っているベストプレイスを目指して歩いていた。

「ライト、腕」
「あー、ごめん掴んだままだったな」
「ふふ、そんな事しなくてもおれはちゃんとついて行くよ」
「おう。っていうか田園、年下だったんだな」

改めて田園トシキの全身をまじまじと眺めてみれば、アイロンのきちんとかけられた上質そうな白い制服が目に映る。
相当頭が良くなければ入れないと聞いていたが、髪の毛が黄緑色でも許されるものなのだろうか。

「大学生との違いなんて年くらいじゃない?」
「そうかも知れないけどな、結構君の事知らないで好きになってたのが多少はショックなんだよ」
「え?今なんて?」
「……二度も言うかよ」

自分が大人なのだから、余裕を見せなければならない。
だからこそ、さらりと簡素に告げて終わりにするつもりだった筈が、田園の天然らしい攻撃に沈められてしまう。

「好きだけどよく知らないからおれ達はまあ付き合えないの?」
「そういう事。後から幻滅して別れるとか嫌だからな」

つまり、そう続けて言おうとした言葉が、田園によって吸い取られる。
自分より少し高い背の彼が多い被さるように触れてくるそれは、飴でも食べていたのか先日のものより一層甘く感じられた。

「ねぇ、このキスは好き?」
「嫌いじゃな……す、好き、だと思う」
「おれもだいすき」

不意打ちの言葉に、頼人はさりげなく田園の手から抜き取っていた煙草ケースを胸ポケットに戻して咳払いをする。

「観念してやる。オレが煙草吸いたくなったら、君が止めてくれりゃいい」
「うん、これからお互いの事知っていけばいいよね。おれにも教えてよ、あなたの事」

そうして再び伸びてくる腕を、頼人は優しく受け入れてその背中に自分の腕もまわす。

「ライトは経験豊富なんだね、なんか慣れてる感じがする」
「ははっ、何だそりゃ。中学の時一瞬だけ彼女がいてすぐフラれたくらいだよ」
「妬けるね」

そうして再びキスを落とされそうになって、頼人はようやく気がついた。
この状況はもしかしなくても、悪い大人(大学二年)が、未成年(高校生)に手を出している図そのものなのではないかと。

(……今度あのリーマンさんに相談でもしてみるか)
だからと言って、今更始まってしまった電撃的なこの気持ちを抑えられる訳でもないのだ。

「トシキ、これからもよろしく頼むな」
「頼むって?何を?」
「肝心な所で鈍感になるなよ!!」
もしかすると、田園の方こそ頼人からすれば窮地を救ってくれる王子様なのかも知れない。
これから起きるであろう刺激のある生活を想像して、こうして振り回されるのも悪くないと思った。

 一方その頃取り残された親友inテラス席では。
「頼人、麺伸びきっちゃったよ……」
どんぶりいっぱいにふわふわと浮かぶラーメンを前に、ため息をつく姿がいたとかいないとか。

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