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Short

 野菜がてんこ盛りのサンドイッチを食べにくそうに悪戦苦闘しながら、親友は話の続きを待っている。
頼人が言うまで口をつけるつもりがないのか、バンズの端からこぼれかけているエビにもお構いなしだ。

「なんかコイって聞こえたけど」
「……あー、近所の池がな」
「いやいやこの状況でさすがにそれは嘘って分かるから」
「そうだよな……」

ため息をついて、いっそ打ち明けるかと思い切りその為に必要な煙草を手にしようとして、頼人は再びため息をついた。

「やっぱり中毒っぽくなってる、気をつけなよ」
「へいへい」
「ハイは一回」

こつんと拳を額にあててくるその仕草は天使そのものに見えるほど愛おしいのに。
それでも頼人の心の中に占める割合は、じわじわと田園に浸食されていく。
それはまるで、電気が通って街に少しずつ明かりが灯るように。

胸ポケットに触れかけた手を何気なく卓上のラーメンに降ろして、頼人は苦笑した。
「お前はさ、あの人とうまくいってんの」
「ノロケ話ならいくらでもあるけど……頼人そういうの苦手じゃなかった?僕がいつも元カノの話聞こうとすると嫌がるのに」
「あれはあれだ。まぁ話したくないならいいそ、別にそこまで聞きたい訳でもない」
「それじゃ堂々巡りでしょ」

お互いに顔を見合わせて、どちらからともなく笑い出す。
親友があのサラリーマンと付き合い始めてもう数ヶ月の月日が経とうとしていた。
その間に、心の折り合いがつけられてきたのかも知れない。

「ライバル卒業、だな。舞台にすら上がれていなかったけど」
「それってどういう……」
親友がこちらに手をのばしかけたその時、遠くから頼人を呼ぶ声がしてきた。
ずれた眼鏡も気にする事なく、同じ学科の知り合いがこちらまで走ってきている。

「和戸、なんか北門の所で人だかりが出来てるんだが」
「それを何でオレに報告する」
「その中心にいる奴が、“ロミオを連れ出しにきた”って言ってるんだよ」
「あー、何かちょっと分かってきた。でもそれでオレだと分かるお前も大概すげぇな」
「芸術科漫画コース専攻を舐めるなよ」
したり顔でほくそ笑む相手に適当に感謝を述べながら頼人は立ち上がった。

 昼食のラーメンはまだまだ残っているし、親友との大切な一時の途中だ。
それでも、会いに行かなければと本能が告げていた。
人目も気にせず北門へと駆け抜けていくと、つい先日の事を思い出しかけてしまう。
顔が赤くなるのは運動させられているせいだと自分に言い訳をして、頼人はその場所へとたどり着いた。

 本当に数人の女性が、一人の少年を中心軸に固まっていて少し面白い状態になっている。
白いブレザーに金の装飾がついた制服。あれは確かかなり有名な進学校のものではなかったか。
頼人が一歩近づく。女性が蜘蛛の子を散らすように離れる。
田園が一歩歩み寄る。触れられそうな距離に縮まった。

「王子様は魔法がないと生きられないんでしょ?」
大事な煙草ケースを片手に、田園は目を細めて笑う。

「ロメオって別に王子様とかじゃないけどな」
「そうだったんだ、じゃあ何だろう」
「うん、その前に取りあえず移動しないか?」
こんなにも人の目が自分に注視される事など、人生これっきりにして欲しい。
そういう意味も込めて言ったつもりだったが、田園はくすくすと笑って了解した。

「二人きりになりたいだなんて、大胆だね」
「違う、いや違わないけど、っとにかく急ぐぞ!!」

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あきゅろす。
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