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へんへん。
席替え
 朝。向山がのんびりと教室へ到着すると、常にまっさらである筈の黒板には、見慣れない表が記されていた。
向山は完全に気づかない様子で自らの席に腰を降ろすが、表の上の“席替え”と言う文字を見るなり立ち上がった。
−そうだ、忘れていた。

 向山の所属する二年B組には、教師が適当かつ無作為に決めた何の実りもない席替えが存在する。
これを生徒達は「地獄の席替え」と呼んでいる。
何故なら、やたら男子が固まる位置があったり、わざとらしく仲の悪い生徒同士を配置する事があったりするからだ。
黒板の表をじっと見つめた向山は、周りに気づかれる事なく、しかし心の底では歓喜のお祭り騒ぎだった。
新しい席へと移動しながら、急かす様に携帯電話を取り出すと、予習に勤しんでいるであろう、隣のクラスの友人にメールを作成する。
こう言う機嫌の良い日は、思い切って絵文字でも使ってしまおうか。
高鳴るテンションに身を任せ、高速でメールを送信した。

《席替え!!廊下側の席!キタワァ》

 長塚は誰よりも早く登校し、予習を颯爽と済ませていた。
教師が来るまでの数分間、何をして時間を潰そうか、その事だけを考えながら、携帯電話をいじっていると、向山からのメールを受信した。
だが、その本文は長塚には理解の範囲内に無かった。
それがどうしたんだ、そう返信すると、それに対して向山の返答は簡素で単純な物だった。

《教室移動の時会えるじゃんね》

語尾には丁寧にキラキラマークが添えられている。
アホか、そう返事をしながらも、長塚はにやにやと口角が上がってしまうのを抑えきれずにいた。

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