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へんへん。
テスト
 その日の朝から、向山咲は学校中を逃げるかのように走り回っていた。
その理由をわかっている同級生達は、蚊帳の外である事をいい事に、その状況をあざ笑っていたり、哀れみの目を向けていたりする。
一部の生徒は、同情からか応援の声を駆けている者までいたが。すれ違う人々の声援をちらりと眺めて、向山は一人、ため息まじりに呟いた。

「誰か匿ってくんねーかな」

 長塚蛍は、友人である筈の少年を探していた。
原因は、今現在歩いている廊下にある。
何時も通りに、一位、長塚蛍と記された張り紙も、今日はただ忌々しいだけだ。
それは、最下位の人物のせいだった。

「テストの結果の端と端を独占、なんてひどいにも程があるぞ」

一か八か、クラスメイトに向山が走り去った方向を聞くと、驚く程呆気なく教えてくれる。
どうやら彼は、二限目から屋上を目指していたらしい。
今頃は屋上でバカンスじゃないか。そう言われて、長塚のストレスゲージは格段に跳ね上がる。
会った時の「お仕置き」の事を考えて、つり上がる眉を押さえつける。
折角これまでに築き上げてきた優等生の仮面を、こんな所でぶち壊す訳にはいかないからだ。

 屋上の扉を力いっぱいに開けると、当事者である向山は、フェンスに背を預けてのんびりと眠りこけていた。
これには先ほどまで高ぶっていた長塚の怒りも、しおしおと萎びてしまう。
本人には絶対に言えないが、長塚は向山の寝顔がとても好きなのだった。
向山の横にそっと腰掛けて、だらりと放置された手に己の手を重ねる。

「起きたら何してくれようか」
穏やかに紡がれたその言葉は、誰の耳にとまる事なく、爽やかな空に消えていった。

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