へんへん。 始まり キーンコーンカーンコーン。 少し間抜けで子供っぽいチャイムが夕暮れの校舎にこだまし、長く感じていた教師の退屈な説教が終わる。 すると生徒達は、思い思いのタイミングで昇降口から飛び出していった。 向山咲は、授業中ずっと机に伏せていた頭をようやく上げる。 彼にとって、授業と睡眠はとても太いイコールで結ばれた、いわば運命の恋人なのだ。 向山は、下駄箱の前で己を待っているであろう友人に、極めて短絡なメールをうつ。 返信次第で、この後の行動を決める為だ。 『今起きた件』 未だ眠気が取れず、霞みがかっている廊下を、ふらりふらりと揺れながら歩いていると、ポケットに押し込んでいた携帯電話が、突然、可愛らしいメロディーでけたたましく鳴り響く。 流行りのアニメソングの着メロだ。 一瞬で目を覚ました向山は、周りに人が居なかった事に安心してから、慌てて携帯電話を開く。 先ほどのメールに、返信がきていた。 『5秒で来い』 完全に待たせてしまったでござるの巻。 向山は頭を抱えるのも忘れて階段を二段飛ばしで駆け降りる。 頭の中では運動会で流れるあのテーマが流れていた。 昇降口に一番近い角を曲がろうと、ラストスパートをかけるべく、大振りな一歩を踏み出した所で、弁当箱が顔の側面に直撃した。犯人は言わずもがな、友人こと長塚蛍である。 「おはよ、咲。そしてさよーなら」 床とこんにちはをする向山に、長塚はしゃがみながらにっこりと微笑む。 そして、全く遠慮のかけらもなく勢いに任せた蹴りをその背中にお見舞いすると、自らの弁当箱を拾って立ち去って行った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |