へんへん。
充電器
付き合い始めて数日後、向山は長塚の家へと来ていたが、何だか、何時もと違った雰囲気の様な感じがして、少しくすぐったかった。
「これが恋をすると世界が違って見えるの現象(BY少女漫画)か!」
「変な事言ってないで、早く風呂入っといでよ」
額に投げつけられたタオルに違和感を覚える。
そう言えば、最近の長塚は、前の様に見境無く暴力を振るう事を止めたらしい。
その事を尋ねてみると、「電池が切れてたからね」としか言われなかった。謎である。
入浴を終えて、長塚が座るソファーへと近寄ると、彼は小さく寝息を立てていた。
向山は、少し考えた後、その横へと、そっと腰掛ける。
すると長塚は、ぼんやりと目を開けた。向山は、未だ夢現をたゆたう長塚に構う事無く、まるで自問自答の様に、呟く。
「“電気が切れる”って、どう言う事なんだよ」
長塚は、アーハイハイ、と言った、親が子供にする様な表情で頷くと、向山の手の上に、自らの手を優しく乗せて微笑んだ。
「何かと理由付けてさ、触りたかったんだよ、多分」
じゃないと、気持ち的な物が爆発しちゃうから。
軽すぎる程にあっさりと告げられたその言葉に、向山は“照れ”を隠す為に俯く。
長塚は、そんな向山の顔を、知ってか知らずか、重ねた手を己の口元へと寄せる。
「でも今は、好きに触れるって訳だ」
向山は、真っ赤になった顔を隠す事なく上げると、自らの手から長塚の手を弾く。
苦笑いする相手に、向山の羞恥心は跳ね上がった。
「か、勝手に触れると思うなよバーカ!」
何だろうこの可愛らしい生き物。
長塚は混乱寸前の向山を抱きしめ、その背中を軽く叩いてやる。何と言う役得。
まぁ己のせいなのだが。
落ち着きかけた向山に、調子に乗った長塚は、向山の耳に息を吹きかけた。
「やめんかっこの、変態!」
はいはいごめんね。そう謝りつつも、長塚は不自然な事に気がついた。
咲、そんなに嫌なら、もっと抵抗すればいいのにね。
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