へんへん。
交差点
長塚と向山の縁が切れてから、一ヶ月が経った。
あれからと言う物、向山が長塚の事を考えない日はなかった。
ご飯を食べている時も、風呂に入っている時も、ずっとずっと、あの時失敗した答えを悔いていた。
向山の数十倍、告げてしまった事を後悔している人物がいた。
それは、言わずもがな、長塚蛍である。
言ってしまえば、どうなるか何て事は容易に想像出来た筈なのに、どうしてこうも上手くいかないものか。
向山は、ただぼーっと歩いている。
そこがどこなのか、忘れてしまっていたのだ。
単調に進み、さぁもう一歩を踏みだそうとした、その時。
「咲っ、下がれ!」
長塚に、そう言われた気がして、思わず向山は後ろに下がる。
すると、その目の前を、大型トラックが轟音と共に滑り抜けて行った。
危うく死ぬ所だった事に気付いた向山は、へなへなと腰をぬかした。
「危なっかしいったらありゃしないよ、馬鹿」
呆然とする向山に、そっと差し出された手。
それは、紛れもなく、大好きな親友の腕だった。
向山は、その手を躊躇う事なく掴み、確かめる様に自分の頬に寄せた。
そしてじっと目を瞑ると、ようやく口を開いた。
「蛍がさ、知らない奴と歩いてんの。すっごい嫉妬した」
まさか。思ってもみなかった素直な言葉に、長塚も負けじと言い返す。
「お前みたいな馬鹿に付き合えるの、僕くらいでしょ」
うっ、と言葉に詰まる向山だったが、振り切る様に頭を振るった。
「電車で、支えてくれたのだって、超混乱した」
それってもう、好きだったって、事だよな。
今度こそ、答えのわかりきった問いに、長塚はたまらなくなって、向山をそっと抱き寄せた。
「気付くのが遅すぎるんじゃ、馬鹿咲」
こうして二人の関係は、友人から“恋人”に変化した筈であったが、しかしその実、ただちょっと素直になっただけで、普段と何ら変わりの無かったのである。
まぁ、この二人には、それで十分なのだが。
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