へんへん。 電車内 初めて長塚の家に泊まってからと言う物、向山はちょくちょく長塚の家に遊びに来る様になっていた。 要は、ファミリーレストランの代わりになったと言う事だ。 この日も、翌日が休日と言う事もあってか、向山は長塚に連れだって、彼の家へと帰るべく、電車に乗っていた。 「家着いたら何しよっか。なぁ、蛍は何やりたい?」 小さく鼻歌を歌いながら、これからやる予定であろう、ゲームの事をわくわくと考える向山。 お前の家じゃないんだけど、とつっこむ長塚だったが、少し居心地が良さそうに、その提案を受け入れていた。 『カーブ通過の為、少々揺れますので、ご注意下さい』 暢気な社内のアナウンスをBGMに、向山がうたた寝をしていると、車掌の言う通りに、電車は右へ左へと大きく揺さぶられる。 寝入りかけていた向山は、思わず足を滑らせてしまったが、何とか転ばなかった。 「……あ、あり、がとう」 長塚が、その肩をしっかりと押さえてくれていたからだ。 長塚は、何でもない事に様に、窓の外へと目線をやったまま、向山に話しかけた。 「危ないんだったら、僕につかまってていいよ」 その一言を聞いた時、向山は、自分でもわからない内に、顔が赤面してしまっている事に気がついた。 そして、頭の中に、あの“通学路”での出来事がふとよぎる。 ああ、そうか。この気持ちは、あの時とよく似ている。 覚えのない謎の感情と、理由もなく赤面する顔。 向山は、もしかしたら風邪でもひいたんじゃないか、と自らのおでこに触れてみた。 「咲、咲。知らないの?馬鹿は風邪、ひかないんだよ」 珍しく考え込んじゃって、馬鹿みたいだよ。 当事者である長塚は、顔にハテナを浮かべて尋ねる。 その表情を見た向山は、人の気も知らないで!とばれない様に小さく憤慨した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |