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アオソラ

 次の日の、朝。僕は電車の中で、何時も通りに新しく買った本を、ただ黙々と読み漁って居た。
すると、不意に肩を誰かにつつかれた。
誰かにぶつかってでもしてしまったのだろうか、恐々としながらもそちらに視線を寄せると、それは昨日と同じく、青山春海だった。

「おはようございます、川島。今日も本を買ったんですか?」

よくもまあそんなにスラスラと言葉が出るなあ。
返事を忘れて僕が感心していると、青山は僕の鞄をちゃっかりと開けていた。

「新装版らえもんが三つ。今日は案外地味なのチョイスしましたね」

無遠慮に晒された僕の大事ならえもん。
何も知らない無垢な子供の様にのたまう青山に振り向くと、僕は笑顔で中指を立てた。

「アンタに、どらえもんの良さは、わからんでしょーね」

 怒り顔を顔面に張り付けた僕を尻目に、青山はさながら金魚の糞のごとく、僕の後ろをスタスタと着いて歩いた。
手には本を離さずに。彼は本から一ミリたりとも目を逸らさずに、僕の顔色をそっと伺う。

「機嫌直して下さいよ。まるで俺が、悪人みたいじゃないですか」
「いや悪人じゃないの。って言うか勝手に人のらえもんを読むな」

青山の手から奪い去る様にして、僕は自分の漫画を取り戻す。
すると、手持ちぶさたになった青山は、自らのポケットの中から文庫本をスッと取り出した。
何だよ、人の本読んでないで自分の本を読めばいいのに。

「すみません、何だか川島の反応が面白くて。つい」

新たに読み始めた本をペラペラとめくりながら、青山は他人事の様に謝罪する。
謝る気が少しでもあるのなら、ちゃんと目を見て話さないと許してやらん。
僕はため息を噛み殺し、取り返したらえもんを開いた。
廊下で立ち止まって、ただただ本を読むだけの僕等は、他人の目にはどう映って見えるんだろうか。
想像してみたら、ちょっと面白かった。

 「川島、ノビタ君って意外と良い事言うんですね」
「ふん、らえもんの名言の数に比べたら少ないさ」

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