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アオソラ

 「気にしないで下さい。僕も、僕もそうだから」
ぽつり、と呟かれた言葉は自分自身への確認みたいな物だった。
しかし、相手は己へのフォローだと思ったらしい。
彼は苦笑いをしたままに、すみません、と謝りながら、本を鞄へとしまいこんでしまった。

 その後、彼が電車を降りるまで、僕達は、一言も会話を交わす事はななかった。
ただ、お互いに黙々と読書に耽って、ページをめくる音だけが電車内に落とされていく。
電車を降りる間際に、彼は人の波に包まれながら何かを言いかけていたが、それが僕の耳に入る事はなかった。

 学校へ到着すると、教室には、担任は未だに来ていない様子で、クラスメイト達は「転入性が来るから、色々あって遅いんだ」とひそひそ噂を繰り返していた。
僕はと言えば、特に何をする訳でもなく、ただ、あの少女漫画をぼんやりと見つめて、先程の会話を思い出していた。

“俺、自分で言うのも何ですが本の虫なんです”

まさか同い年で、あんなにも話が通じる人がいるとは、思ってもみなかった。
短い時間だったが、あんなに楽しかったのは久しぶりだった。
もしかしたらあの人だったら、友人になれたかも知れないな。
新学期以来、開いたままの隣の席を見て、僕はささやかに願った。
どうか、どうかこの席に座る人が、同じ趣味の人でありますように、と。

 担任の先生がいそいそと教室に入ってくると、クラスメイト達はにわかに騒ぎだした。
担任はと言えば、僕と目をあわせるなり、何も言わずに頷き、そっと親指をぐっと立ててみせた。
何が言いたいんだ。

「今日は大方の想像通り、転入性を紹介する。青山、入れ!」

教師の言葉に、廊下に立っているであろう転入生は快く返事をする。
その声に、何となく聞き覚えがあった僕は、入り口のドアを凝視した。

「初めまして。青山春海と申します」

深々と頭を下げたその人物は、僕の予想を裏切る事はない。
その瞬間、僕と青山の視線がぴっと合わさると、お互いに驚愕して、沈黙した。

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