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アオソラ

 僕の言葉の直後から、その場を長い長い沈黙が包んでいた。
言ってしまった事への羞恥に染まる僕と、言われてしまった事への羞恥に染まる青山は、他人から見てどういう感じに写るのだろうか。
恥ずかしさでいっぱいの、静まり返る空気をうち破ったのは、青山の一言だった。

「あの……川島、此処昇降口なのですが、大丈夫ですか」

色々と。そんな、青山が放つとは思えなかった予想の斜め上を行く言葉に、僕の顔は、最早茹で蛸のごとく、真っ赤になってしまうのだった。

「青山、兎にも角にも帰ろうぜ、もう僕此処にいられない」

羞恥心を振り切って捻り出した声は見事に裏返る。
青山は、はい、と笑顔で頷く。
僕と彼は、笑いながら学校を飛び出した。

 駅までの道を、僕と青山はゆっくりと歩いていた。
まるで、家に帰るのを、惜しむかの様に。
青山は、キョロキョロと小さく周りを見渡し、人気の少なさを確認したかと思うと、オホン!と誤魔化す様に咳を一つして、躊躇いがちに、僕にそっと問いかけてきた。

「川島……その、手を繋いでも、よろしいですか?」

僕が返事の変わりに手を差し出すと、彼は怖ず怖ずとその手に自らの手を重ねる。
触れ合った瞬間、手のひらにひんやりと心地よい感じがして、僕は思わず、彼の手を更にぎゅ、と握りしめてみる。

「ふーん……青山君の手って、案外冷たいんだね」
「済みません、今とても緊張しているので、冷たくなってしまって」
「謝らないでいいよ。暑い時とかに便利だなーって思ったし」

明後日からの夏休み、ずっと繋いでいたいかな。
たまには、僕が青山をからかってやろうと思って、小さなイタズラ心でそう言うと、彼はずっと緊張しないといけないのか、と苦笑する。
これからの夏休み、僕は青山と何をして過ごそうか。
そればかりを考えていると、青山はああ、と思い出したかの様に口を開いた。

「あのネットカフェ、WEBコミックのコーナーが出来たんですよ」
「まじで!早速今度行こうよ」

繋いだ手を振り回して、僕がそう言うと、青山は嬉しそうに頷く。僕と彼の小さな約束を、青空だけが聞いていた。

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