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アオソラ

 「青山君。待って!僕、まだアンタに言ってない事が」

あるんだ。そう続けようとした言葉は、そのまま紡がれる事はなかった。
その瞬間、青山が僕の手を、勢いよく振り払ったからだ。
珍し過ぎる彼の行動に、驚きのあまり黙ってしまう僕に、青山は辛そうに歪んだ表情を俯かせて、小さく小さく、まるで蚊の鳴く様な声で囁いた。

「俺は、君が思ってる程に、優しい奴なんかじゃないです」

そう言うと青山は、何も聞こえない様に、今度こそ図書室から飛び出して行ってしまう。
僕は、彼の放った言葉を、頭の中で、何度も何度も反芻しながら、ぼんやりと昼休みの仕事を終了させるのだった。

 “また、午後の授業で”なんて言った癖に、青山は次の授業の時間も、一度もこちらを見ようとはしなかった。
授業中だし、それは真面目でいい事ではあるんだけど、僕はどうしようもなく寂しくなった。ノートの端に、小さく、“ごめん”と書いて隣に寄せる。すると青山は、しー、と人差し指を立てて、ノートの端に「授業中ですよ」と返信した。
些細な事だけど、歓喜にうち震えそうな僕がいた。
青山はピンと立てた背筋で、先程と同じく、黒板を真っ直ぐに見つめている。
そんな姿を見て、自分の中にある好意がまた沸き上がっていく感じがする。
僕はそれを誤魔化す為に、慌てて教科書へと視線を注いだ。

 最後の授業が全て終わり、担任がSHRの為に教室へと来るまでの短い時間の中で、明後日からの夏休みを目前にして、ただ二人を除いて、クラスメイト(主に女子)は、にわかに騒がしくなっている。
二人のうちの一人こと僕はと言えば、未だ静かに読書に耽っている、隣の席を見つめて、ため息混じりに、またしても悶々と考え込んでしまっていた。

「“俺と君は、友達で居る方がいいんです”、か……」

青山の思いから逃げたのは僕だ。
青山の言葉から、身勝手に腹を立てているのも僕だ。
でも、それでも、折角この気持ちに気づいてしまったのなら、僕達はもう、友達と言う仲には戻れないのだ。

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