アオソラ 僕と相談 斉藤さんは、どことなく頼りない顔をしてはいるが、実際の所は、人をほっとさせる達人だった。 かつての僕が、彼への好意をはっきりと自覚したのは、小学校四年生の夏の日。 彼が、大学へと進学する為に、本屋を辞める事になった、と僕に話してくれた時の事だ。 貴方は大事な常連様だから一番に教えたくなった、そう言った表情は悲しげで、もう此処では会えなくなってしまうのだと、切なくなったのを覚えている。 少ない小遣いで、どんな漫画が買えるだろうか。 そんな相談をすると、斉藤さんは僕を古本コーナーへと連れていってくれた。 別の日、僕が父親の要らない本を売りに行くと、目を輝かせて私が買い取る!と個人的に引き取ってしまった。 その次の日には、倍以上の漫画本を、僕にプレゼントしてくれたっけ。 年上の、しかも同性の男性を好きになるなんて、僕は変な子なんだと、その思いを殺して、僕は見送ったのだ。 だからこそ、青山が僕に対して、あっさりと好意を打ち明けてしまえるのが、羨ましくも、許せなかったりもするのだけど。 斉藤さんが運んできたコーヒーカップを見つめて、僕はそっと回想していく。 すると彼は、慎重に言葉を選びながら、話しかけてきた。 「このコーヒーが冷める頃には、私に話してくれますよね」 「……はい、わかってます」 僕は、出来ればずっと冷めて欲しくはない、なんて叶わぬ小さな願いを込めて、水面に映る斉藤さんの顔を眺めてみた。 今はただ、憧れのお兄さんでしかない筈の彼の顔は、誰かに似ていて、今はとても複雑そうな表情をしている。 空調でどんどん飲みやすくなっていくそれを、僕は意を決して一口だけ飲み込むと、長く長く、ため息を吐き出した。 「斉藤さん、僕、今とても混乱してるんで、長くなっちゃうと思うんだけど、話を、聞いて貰ってもいいですか」 「ええ、勿論。他でもない貴方の話なら、いくらでも」 ありがとう御座います。 僕は青山が何時もそうする様に、深々とお辞儀をする。 コーヒーをもう一口口にしながら、僕は言葉を考えていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |