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アオソラ

 読み終わった本を返す為に本棚へ寄ると、同じく本を選んでいた青山とすれ違った。
彼は今、アニメ化もした有名な推理漫画に熱中しているらしい。
僕はやたら説明っぽい台詞が多くて笑えてきてしまうのだが、青山にはとても胸にくる物があるらしい。
十巻を一気に読んでは、次の十巻分をせっせと運んでいた。どうやら十巻分運ぶのが精一杯らしい。

 数分後の事だ。選んだ本を持って部屋へ戻ろうとすると、扉の前に二人の少女が立っていた。
中途半端に開けっ放しになっていたドアの隙間から、青山の真剣そうな顔が見える。
彼女達は、そんな青山を見てきゃあきゃあと黄色い声をあげていた。思わず、僕もそちらを盗み見る。

−紙をめくる、綺麗な指。
少し長い睫毛に、きりっとした眼差し。
少女漫画よろしく表現するならこんな所だろうか。僕は今まで一回も意識をした事がなかったが、そうか、青山って、綺麗な奴だったんだな。
その事に気が付いた瞬間、僕は何故だか、青山から目をそらせずに居た。

 「川島、コーヒーのおかわりいりますか?」

青山は推理漫画を読んだ後の、何とも言えない雰囲気に包まれながら僕に尋ねる。
しかし、僕は漫画に熱中しているふりをして、返事をしないでいた。
何となく、彼の顔をもう一度見る気持ちにはなれなかった。
見てしまえば、何とも言えない感情が胸を打つからだ。
そんな俺を見た青山は、ふう、と短い息を吐いて耳打ちをする。青山と、僕の眼鏡のフレームが丁度ぶつかって、かちりと
音が響く。何かエロい気がする。

「川島は嘘をつく時、右の眉がぴくっとするんですよ」
「えっ、嘘そんな癖あるわけがない……って」

急いで顔中を撫でると、青山はふふ、と吹き出す。
僕は彼の再びのしたり顔を見て、“やられた”と直感的に思った。青山は続けて口を開く。

「そうですね。君が嘘をついた時に動かすのは、左の眉でした。すみません、ちょっと反応にむかついてしまったので、カマをかけさせて頂きました」

そろそろ出ますか。彼の絶対的な一言で、僕達は外へと出る事にした。

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