[携帯モード] [URL送信]

アオソラ
僕とお出かけ
 夏休みの一週間前は、業者の込み入った清掃が入る為、授業が月曜日と水曜日が午前中で終了になり、午後は教室等に入る事が許されない。
青山の誕生日は、たまたま水曜日だったらしい。特に予定の無かった僕は、涼しい所なら、と二つ返事でオーケーを出した。
担任の長ったらしいSHRを終えて、僕と青山は昇降口から外へと向かう。
彼の中では、既に行き先が決めてあるらしい。
一体何処に行くんだ、と僕がいくら尋ねようとも、青山はふふ、と隠す様にただ微笑むだけで、どうやら、いいから黙ってついて来なさい、と言う事らしいのは確かだった。

 バスに乗る事三十分。僕と青山がたどり着いた場所、そこは『Pipin's Home』と大きく書かれた看板の下だった。
ゴシック体でつやのあるその文字を、ぼんやりと暫く眺めてから、僕は怪訝な表情で青山に向き直る。
無言で圧力をかけていると、彼はようやく、仕方がないなあと言った様子で、ため息をついてから、もぞもぞと口を開いた。

「此処は、俺がひいきにしている、ネットカフェなんですよ」
「ネットカフェって、僕そんなにネットサーフィンとかしないけど」

僕の言葉に、青山はいえいえいえ!と手を大袈裟に振ってみせる。
どうやら、彼の目的はコンピュータにある訳ではないらしい。
こう言う場とは全く無縁の生活を送る僕にとって、この場所がどんな場所なのかを、想像で補っていくしかないのだ。青山はしたり顔で続きを述べた。

「ネットカフェには、場所や店舗によっては本のスペースの方が広い事があるんですよ。此処は、特に青年漫画のコーナーが大きいんです」

青山の言う通り、店の入り口にはでかでかとシールが張られており、“漫画の量はこの市一番!”と根拠のなさそうな謳い文句が煽り文の様に記されていた。
僕は、青山の後ろを怖ず怖ずと着いて歩いていく。

「青山君って、本の為なら、何処にだって行けるんだね」
こっそりとぼやいた言葉は、入り口のドアにぶつかって滑り落ちた。

[*前へ][次へ#]

15/31ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!