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アオソラ

 毎朝、八時二十分の電車に乗る事で僕と青山は落ち合う事が出来る。

「おはよう御座います、川島」
何時も通りの挨拶。だが、今朝の青山は何時もとひと味違っていた。

「青山君、その手に持ってる奴……何?」
「ああ、これですか?猫汁大全の上下巻ですよ」

青山が手にしていた物、それは分厚すぎる程パンッパンに膨らんだ、本屋のビニール袋だったのだ。
僕はどこかで聞いた事のある本のタイトルに、暫く思考を停止しかけた。
上下巻って!上だけで0.5キログラムはあると言うのに?青山の謎の行動力には、僕は時々吃驚させられる。

 昼食後の休み時間は、早くご飯を食べ終えた人から自由に行動する事が出来る。
普段、涼しい日はいっぱいになるのは校庭だが、七月になると満員になるのは図書室だった。
−そう、僕の仕事が増えていくのだ。カウンターで貸し出しの手伝いをしていても、この学校で真面目に本を読む輩はそうそういない。
空調の下で騒ぐ生徒達を尻目に、僕は退屈しのぎに、青山から借りた漫画を読んでいた。そう、猫汁大全だ。
「これ結構麻薬ネタとか血が出てきてブラックなんだよね」
「でも、たまにある四コマ漫画が結構クスッとくるんですよ」
僕の呟きを拾ったのは、言わずもがな青山だった。彼は、推理小説を借りに来たらしい。
僕が手続きをしている間、彼は僕が傍らに置いたその漫画を、ぺらりとめくっては笑い、めくっては訝しむ様な表情をした。

 昼休み終了十分前。貸し出しカウンターを締め切り、図書室から出ようと立ち上がると、青山が待ってましたと言わんばかりに手を上げた。
教室に帰るべく、二人で廊下を歩いていると、突然彼は口を開く。

「そうだ。俺、明日誕生日って言ったじゃないですか」
ああ、そう言えばそうらしいね。おめでとう。僕が乾いた笑いでそう言うと、青山は躊躇いがちにひっそりと問いかけた。

「明日って、午前で授業終わりじゃないですか。……その、放課後なのですが、どこか遊びにでも行きませんか?」


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