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アオソラ
僕と質問
 それは、不意に思いついただけの、小さくて何気ない疑問だった。

「青山君はさぁ、漫画以外も読んでるけど、どんな本が好きなの?」

その質問をしつつ彼の手元を見る。今日は“56円料理”を読んでいた。
青山は、あっさりとしおりを挟むと僕に目線を寄せる。その表情は、どことなく悲しそうな感じがして、僕は思わず身じろぎをした。

「何だか、クラスの女の子達みたいですね、ちょっと意外です」

ふはっ、吹き出しながらそう紡ぎ出された一言は、さながら拒絶の矢のごとく、僕の心を鋭く刺した。
後悔が、とめどなく背中に押し寄せた。

「あ、青山、気に障ったらごめん。何かちょっと気になってさ」

自分にしては珍しく、取り繕う様な行動を取っていた。
僕はそれだけ、青山の事を少しは気に入ってると言う事なんだろうか。
急激にシリアスな雰囲気を醸し出す教室内、そんな中で僕が狼狽えていると、突然、愉快そうに笑う、明るい声がそこに響き出した。そう、青山だ。

「何を勘違いしてるんですか、川島は。馬鹿ですね」

突然の事過ぎて、僕は開いた口が塞がらない。
青山は本の角を指でつー、となぞりながら、事実は小説よりも奇なり、と小さく呟く。

「別に俺は、質問自体は、別段悪く思ってませんよ」

ただ、と彼は人差し指を立てて横に小さく小刻みに振った。

「それがただの興味本位でしかない事が、少し悲しいんです」

クラスメイトと同じ、只の好奇でしかないなんて、悲しいですから。
そう言う青山の目は、どことなく遠い目をしている。
言っている意味がよくわからなかった僕は、そう、とだけ呟いて、この話を終わらせた。

 帰り際の事だ。当然の様に一緒に門を潜った僕と青山は、何時も通りに漫画の話をしていると、彼は、急に思い出して、僕に尋ねた。

「そう言えば、先程の質問に答えて居ませんでしたね」
「そうだけど。別にいいよ、無理して答えてくれなくても」

我ながらひねくれた言葉になってしまったが、青山は首を振る。
「いいんですよ。君に、俺の事を知って欲しいですから」

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