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アオソラ

 僕が思う、図書委員の仕事の中で、最も大変で一番素敵な物は、本の森に古書を運ぶ事だ。
理由は簡単、“初恋の人”に会えるからだ。

「大空君。お疲れさま、ちょっと休憩しましょうか」

コーヒーカップを片手にそう言ったのは、初恋の人こと斉藤さんだ。
近所の優しいお兄さんだった彼は、今や本の森の管理人をしているのだ。

「あっ、ああありがとう……ござい、ます」

昔と違って、今はただひたすらに憧れている気持ちしかない筈なのに、僕は未だに、二人だけの空間に居る事には、慣れる事が出来ずにいた。

 小さい頃、そう、僕が小学校二年生にあがった時の話だ。
その日僕は、母親に貰ったその月の小遣い千円を抱えて、近所の商店街に来ていた。
新発売の仮面サイダーの玩具を買うつもりだったのだ。
しかし、玩具屋は既に潰れてしまっており、その場所には立派な本屋が出来ていた。店先で途方にくれる僕に、斉藤さんは目線を合わせて話しかけた。

「君、どうしたんですか?迷子ですか?」
「仮面サイダー、買おうと思ってたのに、玩具屋さんが……っ」

口を開いたら、思わず我慢していた涙が、ぽろりとこぼれた。そんな僕を見て、彼は困った様に笑う。
そして、僕の腕を優しくそっと握った。

 彼が見せてくれたのは、今の僕が愛してやまない漫画本の棚だった。そ
して、今思えば、それは立ち読みを推奨してしまって居るのだが、今こうして僕がはまっている事を考えると、斉藤さんは見抜いていたのかも知れない。
彼は何故か、そう言う勘がよく働く人だった。彼に手渡されて読んだ、仮面サイダーの原作の漫画は、熱い友情と、熾烈な戦いが綺麗にまとめられた一冊だった。僕は読み終わると、レジへと走った。

「凄く面白かった!……これ、幾らになりますか?」
ときめく胸を抑えて、本を彼に手渡すと、斉藤さんはにっこりと笑う。

「えっと、このコミックスは完全版だから……千三百円です。」
 それから僕は、彼の居る本屋に入り浸る様になっていくのだった。

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