アラマホシーズンズ 2 気を失ったと自覚したのは、目を開けて1秒で自分のいる場所が保健室と気づかされたからだ。 等間隔で打ち込まれたドットの目立つ白い天井に、薄刃色のカーテン。ツンとする消毒液の臭いは体調管理のなさを避難してくるような思いがした。 「気分はどうだ」 不意に、足下の方からぶっきらぼうな声が響いたかと思えば、乱暴にカーテンが開けられる。 養護教諭の制する手をやんわりと振り払って、一歩一歩近寄ってくるその足音はさながら魔王のテーマ曲のようだ。 相変わらず、王子の衣装に身を包んだ恰好に適当にジャケットを羽織っただけの荒瀬は、随分と怪訝な表情をしていた。 「すまん。実行委員がこんな……教室の方、大丈夫か?」 「誰かさんのせいで仕事が増えたって文句大量生産ですけど?」 「うわ、そうだよな、すぐ戻―」 起き上がりかけた体を、そのまま強引にベッドに縫いつけれられる。他でもない荒瀬の手で。 緊張しているのか冷たい手をしている等と悠長な事を考えていたその瞬間。 「うひっ!?」 「色気のねぇ声」 わき腹にひときわ冷たい感触がして、首もとから体温計を差し込まれた事を知る。 ぞわぞわと立つ鳥肌に体温よ下がってくれと祈っていると、通じたのか微熱程度で収まってくれていた。 「チッ……裏方が倒れてんじゃねぇよ」 「もう!り〜君そういう事言わない!本間君大丈夫だった〜!?」 耳元で舌打ちされたと思いきや、続けざまにどやどやとカーテンの向こうから人が顔を出す。 ウララや、一緒に設営をする筈だったクラスメイトと順繰りに目があって、次郎はすぐ様起きあがって頭を下げた。 「主役にも、みんなにも迷惑かけて……すまない」 「えっ本間君も主役じゃないの?」 間髪入れずにトキタの素っ頓狂な返事があって、次郎は思わず顔を上げる。 どういう事かと聞き返そうとすれば、クラスメイトが口を開いた。 「いや本当重い奴とか運んでくれたしこっちこそ感謝だっての!」 「裏方側のメインですよ実質」 「体調悪いなら遠慮しないで言ってくれて良かったのに」 最後の一言に再び謝る。荒瀬以外の全員は気にするなと手を振っていたが、自己管理がなっていないのは完全に自分の非である事には間違いない。 それを伝えると、全くだと言わんばかりに大げさに荒瀬が頷いた。 「もうり〜君が見つけて大慌てで私たち呼びにくるからびっくりしちゃったよね」 「そうそう!先生とか他の委員さんに報告すればいいのに―よっぽど焦ったんだろうね」 トキタとウララが揶揄するように荒瀬をつつけば、面倒そうにニット帽に目を隠す。 そうか、あの時声をかけてくれていたのは荒瀬だったのだ。 「荒瀬……あ、ありがとう」 「どういたしまして、本間君」 周囲では、荒瀬が初めてまともに名前を呼んでいる事に驚いている様子が見受けられる。さらにその背後では、暢気にお昼を告げるチャイムが鳴っていた。 どうやら、それ程長く惰眠を貪っていた訳ではないらしいと知り、次郎も安心する。 学園祭は、まだまだこれからなのだ。 教室にたどり着くと、主演である荒瀬とウララを待っていましたと言わんばかりに人が集まってきた。 あの劇を観覧した者の噂が噂を呼び、一目見ておこうと生徒が既に廊下にいたらしい。 あっという間に取り残されたトキタと二人では、居たたまれなくなって眉根を下げる。 荒瀬なしではほとんど話した事がないのだ。 「時間とらせて、すまん」 「謝りすぎだよ本間君は。僕たちも保健室で結構休ませて貰ってたんだ。実は」 芝居終わってすぐに教室行ったら既にこんな感じだったからね、とトキタは次郎に続ける。内緒だと言われれば、急に仲良くなれたような気持ちになる。それなら良かったと次郎が笑って見せれば相手も嬉しそうにはにかんでくれた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |