[携帯モード] [URL送信]

アラマホシーズンズ

 本間家の家族構成は四人。母と父の他に次郎には年の離れた兄がいた。
名前は壱朗といい、いつも深夜に帰宅する仕事好きだ。本人曰くよっぽどの転職らしく、23時過ぎに自室へ着くや否や持ち帰りの続きをせんとする。
そんな理由から、兄弟共用のPCは兄が奪いにくるまでは次郎の好き勝手にいじる事が許されていた。
元々あのゲームも、兄がインストールだけして放置していたのを見て、3体までキャラクターが作れるのだからと始めさせて貰ったのがきっかけだ。
気づけば休みの日に壱朗もログインをする程夢中になっていたが、そのせいで次郎は兄が飽きたタイミングを見計らわないと休日はログインが出来ない状況となる。
壱朗の性質が、熱しやすく冷めやすいタイプで助かった。
そうでなければ、次郎は彼と出会う事がなかったのだから。

 荒瀬と言い争うようになるより少し前、偶然にもゲーム内で一番最初のエリアに向かうイベントに参加していたマホンは、右も左も分からないといった様子のプレイヤーと遭遇した。

「お兄さんカッコいいな、魔法職ですか?」
「タメでいい 闇の魔術師さ」
「僕はラストサムライを目指してるんだけど、手伝って貰っていいっすかね」
レベルは上限解放を待つ身で、親しい仲の友人を育てている訳でもない。
断る理由を探す方が難しい話だったが、生憎と前衛タイプは興味がなかったため、その時はイベントを理由に逃げてしまっていた。

 しかし翌日、そのプレイヤーは同じ場所に現れた。
少しグレードアップした装備が初々しく、マホンが少し歩くだけで追尾してくる。

「話しかけても無視しなかったのはアンタが初めてだ!アンタいい人だな!」
「それを言うために待ってたんか 暇人乙」
「得意だからな。そういうアンタも立ち止まってくれるなんて、やっぱりいい人だ」
あまりにも連呼されるとそう悪い気がしないのが困る。
イベントもクリアし限定装備をしたたかに獲得した今は確かに退屈以外の何者でもない。
仕方がなしにパーティーを組めば、その人―リヒターは嬉しそうに挨拶をしてきた。

「僕、昨日あの後育て方調べたんだわ。だからアンタは僕の言うとおり手を貸してくれるだけでオッケー!」
「それがモノを頼む奴の態度か」
それまでの孤独が嘘のように、忘れていたゲームの楽しさを思い出させてくれるようなあっけらかんとした性格が、妙に馬が合うように次郎は感じる。

 それが荒瀬と会話をした日の後であれば、ストレスのはけ口となりやすく、次郎はゲームにログインをした最初よりもずっとのめり込むようになっていた。

「あーあ あんな可愛かったリヒっちも今ではこんな」
「オトナの魅力が増して色っぽくなってきたっしょ?」
「生意気な後輩がウザい同級生みたいに感じる日がこようとは」
「うーん、それは少しは良い目で見られているんだろうか……」
がっくりとうなだれるリヒターに、なぐさめるようなアクションをマホンにとらせる。
そうすれば、調子に乗ったようにその場でジャンプしてみせる。
同じ機能を使っている筈なのに、どうにも相手の方がコミカルで見ていて気が和らぐのは人柄の違いというものだろうか。

「いやそれにしてもリヒターも結構成長したよ」
「お褒めに与り光栄至極。あ、後衛はマホン君か」
リヒターは、ひょうきんな性格のよく似合う攻撃が最大の防御のキャラクターだ。
敵をクリックして戦闘が始まれば、単語のスペルを何度も繰り出す事で、連続コンボを紡ぎ出す事が出来る。
初対面の頃からタイピングは早かったからこそ、相性は抜群に違いない。
自分でも自信があった次郎も、素直に負けを認めざるを得なかった。結果として、リヒターは短期間のうちに随分と進化を進めていた。

[*前へ][次へ#]

2/8ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!