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アラマホシーズンズ

 高校二年生も終盤に差し掛かった頃の事だ。
入学したての頃は大きめにあしらえたせいでぶかぶかだった制服も着慣れてきた時期。
本間次郎には、いわゆる犬猿の仲の相手がいた。

「クソ太郎じゃん。相変わらずアホみたいな顔だな」
「そういうアホ瀬はハゲ直ったのか?相変わらずニット帽が手放せないようだが。あと俺は太郎じゃなくて次郎な」
「あ・ら・せだっつの……ったく酉年の人はみんな三歩進んだら忘れちゃうトリ頭だな」
「同じ学年ならお前も酉年だろ」
「残念でした。アンタと違って僕は早生まれなんですぅ」
彼の人の名前は、荒瀬というらしい。
らしいというのはクラスも異なるためそうそう知る事もなかったのだが、ご丁寧に毎回同じような会話をさせられて嫌でも覚えてしまっていた。
ちなみに、今回は出てこないが、他にも誕生日などのプロフィールも聞きたくないのに知らされている。

「室内なのにニット帽被ってるのは何なんだ。ラッパーか」
「ほっとけ。こりゃ僕のトレードマークだ」
顔をつき合わせればいつも喧嘩をふっかけられ、何かと因縁めいた呪詛を吐かれる。
最初の頃は適当にあしらっていた次郎も、いつの間にか荒瀬相手に結構な言葉を突きつけるようになり始めている。
それこそ高校デビューで髪を赤く染めたせいか、一年生の頃は教師や風紀委員につっかかられる事も少なくなかった。
しかし、もう間もなく高校三年に上がろうというタイミングで。何故、今になって荒瀬に絡まれるのかが全く持って身に覚えのない話なのだ。
そしてそれが、周囲からすれば喧嘩するほど仲が良い証拠と思われているとは、微塵にも思っていないのだった。

 誓って次郎の方から話しかける事はしない。嫌なら無視をすれば良い話なのだが荒瀬は常に目ざとく声をかけてきた。
思い出す限りでは、9月末にあった部活動の親睦会であったか。
文化系と体育会系ではそれぞれが独立しており、交流する機会が滅多にない。だからこそ、それぞれの強みを披露する事でお互いに切磋琢磨しあおうというレクリエーションが開催されるのだ。
部に入る事は強制ではない。だからこそ、帰宅部で暇をしているであろう生徒はこういう時に重宝させられる。いわゆる、ていの良いパシリだ。
そんな中で、野球部の部室清掃を依頼されたのが、たまたま荒瀬と次郎だった。

「ひ、久しぶりだな」
そう挨拶をしてくれたのに対して、次郎はうっかり相手の顔を失念してしまっていた。
「本当にすまん……どこかで会った事あったか?」
たったそれだけの事だったのだが、よっぽど頭にきたのだろうか。確かに100%次郎の過失ではあるが、それにしても根に持つタイプなのだと次郎は思う。
清掃中は一言も口にする事はなく、その後何度会おうとあの態度だった。
恐らく、忘れてしまっている事を後悔するなら思いだそうとする筈だと荒瀬は踏んだのだろう。
しかし、肝心な次郎はと言えば、一度忘れてしまっているならもう記憶の片隅にいってしまったとすんなり諦めてしまう性質なのだ。
荒瀬からしてみれば、大変残念な事態である。

 放課後。次郎は荷物を早々にまとめて急いで帰宅しようと廊下へ繰り出す。
家に帰れば壮大な冒険が自分を待っているのだ。
お気に入りの腕時計を確認して、今日は23時までならログイン出来ると笑みを浮かべると、正門には見知った浅葱色とニット帽―荒瀬の後ろ姿があった。
どうやらクラスメイトと喋りながら自転車を押しているようだ。
屈託のない笑顔を眺めていると、ますます自分と暴言を飛ばしあうあの光景が疑問に思えた。

(だって荒瀬は俺に、しかめっ面しか見せやしないんだから)
荒瀬が笑顔で話しかけてきたところで、今更それは気味が悪いのだが。

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