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アラマホシーズンズ

 「今からでも全然遅くないし。諦めたけどこれはこれで良かったって今思えればそれでいいんじゃない?」
昨夜リヒターの言ってくれた科白が、次郎の頭の中で何度もリフレインされる。
生まれてからずっと、何事も一歩引いてしまいがちだった次郎にとっては、性格の違いも自分と異なる考え方も、意外性と好感度となって目に映った。

(やっぱり、俺は彼奴の事が好きだったんだ。……今も、このままならきっと)
良くない方向へと思考が進んでいる事に気づきながらも、狡猾な大人となった現在ではいくら表情がにやけていようが変な声がでようが、画面の向こうにはばれる事がないと知っている。
だからこそ、今度こそ言わないままでもこの恋に見ない振りはしないでいたいと次郎は思った。それは、かつての自分がした後悔を、二度と繰り返さない為に。
どうか、約束の二ヶ月が終わるまで。大人しく親友でいられますようにと祈る限りだ。

 そんな次郎の思いを知ってか知らずか、リヒターは毎日同じような時刻にひょっこりと現れては毎日パーティー申請を出してくる。
二人だけの、気心知れた穏やかなチーム編成。あの頃は時に作業的に進めるだけだったゲームも、今回ばかりは街一つとっても丁寧になぞるようにプレイしていた。

「マホンはさ、見た目変えようって思わなかったのか?」
「一瞬悩んだりしたけど やっぱこのゲームするならこれしかないかなと」
「なるほど。でもその赤髪こそマホマホって感じするから、僕は好きだぞ」
「俺オトコには興味ないんで」
ツッコミのアクションをリヒターがするもんだから、思わず顔がほくそ笑んでしまうだけ。
そんな言い訳を自分に聞かせてチャットを続ける。
元々は現実世界の当時の自分に一番近い容姿に設定したつもりだったのだが、ネット上とはいえ誉められるとどうにも気恥ずかしい。

(どうせ校則のゆるい学校に通うなら、思い切って赤い髪にしたい!)
そう中学生の時から憧れていて、高校生になった時それを実現させた形だ。
無理に染めたせいで髪は外ハネしてしまってはいるが、ウルフカットのようでこれはこれで気に入っていた。
元来、家の中にも赤い家具が多めの家で育った環境もあり、赤に惹かれる物があるのかも知れない。
腕時計のベルト部位も、メンズには珍しいワインレッドを選んだ。

「俺もさ リヒターのその衣装こだわってる感じして嫌いじゃないよ」
「素直じゃないな、そこは愛してるって言っていいのよ…?」
無視して先へと歩んでいけば、背後からヒドい!と科白が飛んでくる。
そんな事を言えたら苦労はしない。呆れかけながらも、それから毎日のように二人は冒険の旅へと出かけていた。

 初めて早くも一ヶ月。今日は二代目マホンにとって特別な日になるであろう。
理由はただ一つ。初心者から中級者へと生まれ変わる最初のステップ、一次転職のタイミングがいよいよ差し迫ったからだ。

「まさかここまでレベルを上げられるとはなぁ 本当感謝しかない」
「いやはやお役に立てましたようで。何をお礼して貰おうかな」
「上級者は初心者を助けるモノですぅ」
「無償でか!?」
黙って頷けばガーンとあからさまなショックを受けた様子を見せるリヒター。
それを尻目に次郎は必要な素材を準備していく。

「月のかけらと 魔法の書と 300万コインっと これで星の魔法使いにジョブチェンだ」
「前から思ってたけどさ。マホンって中二病じゃん?」
「せっかくお礼しようと思ってたのにな」
「えええ嘘つけ!」
専用スキルを詠唱すると、マホンの周囲に魔法陣が広がり柔らかな光が包み込む。
思わず見とれるような輝かしい景色に、饒舌なリヒターですらぐっと静まりかえった。

(なんだか、こうしてリヒターが手伝ってくれるとどこまでも目指せそうな気がしてくる)
相変わらず、不思議な魅力を持っている奴だと次郎は思った。

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