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アラマホシーズンズ

 深夜も2時をまわる頃、流石に瞼が重いと言い出したのはどちらの方だったか。
「いい加減年をとったって事なのかね」
「俺も明日仕事だし寝るかな」
あくびのアクションをキャラクターにとらせると、リヒターもその場で船を漕ぐような動きをする。何時の間にそんなモーションが追加されていたのか。
名残惜しいがログアウトしようかという流れとなり、次郎はせめてリヒターの姿が見えなくなるまで待機しようとした。
今日会えた事だって、奇跡のようなものなのだから。

「じゃあ、また明日。この時間に」
バイバイというように手を振りながらリヒターはシルエットだけの姿になり、泡のように消えていく。
完全に回線が途絶えるまで、当然とでも言わんばかりのその科白に次郎はなんの返信もも出来なかった。

 翌日の同時刻。同じ場所でログインをすれば、待ってましたと現れたのはリヒターその人で。
さも当たり前のごとくそこにいるからこそ、昨日言っていた「待っていた」が真実味を帯びてくる。

「よう、遅かったじゃん」
「リヒター君 お前さんってば暇人なの? 一年中ログインしているみたいだけど」
「うるせぇニートちゃうわ」
「どうだか」
信じようにも本人は昔と変わらず、リアルの心境を全くもって話したがらないのだ。
かつてはそれが現実感を見せないこだわりのようで好感があったが、今となっては少しもどかしい。
話を遮るようにゲームに集中する。昨日の続きで、クエストの消化をしていく事にした。

 「狩りばっかりじゃ飽きるし 今日は採集メインにしようかと」
このゲームは、ただモンスターを倒すだけがアイテム獲得に繋がる訳ではない。
背景に描かれた木々やモンスターの残滓を、虫眼鏡で探る事で隠されたアイテムを集める事が出来るのだ。これを俗に、採集と呼ぶ。
次郎の提案に、リヒターはしみじみと呟く。

「高校の時さ、イベント最終日に寝ないで採集したよな」
「うわ懐かしい 魔女のネックレスがなかなか見つからなかった気が」
「あれ今でも露店するとむちゃくちゃ高値で売れるから重宝してる」
怪しそうなマップをひたすらクリックして、ヒットすれば2分の1の確率でアイテムゲット。さらに極まれに特定のエリアでだけレアな物も出現する。
まさか相手の方からそんな話を振られると思ってもみなかった次郎は、思わずキーボード上で指が震えた。
画面の向こうで、“リヒター”は一体どんな表情をしているのだろうか。
それを知る術がなくて良かった。もし何も思っていない顔だったら、きっとショックを受けると分かっていたからだ。

「うは、木陰からペンが沸いてる」
「出っ出〜ゴミアイテム無限回収スポット〜」
「まぁペンはメインクエで使うけどな、、世界観おかしいじゃんな」
マホンのアクションに同意をさせると、リヒターは腹をかかえて笑う。
取りあえず始めたばかりで常にゲーム内金欠状態である次郎は、例え二束三文でもペンは限界まで集めておこうと木陰をダブルクリックした。

 ペンを見つけた!ペンを見つけた!ペンを見つけた!ペンを見つけた!……
チャットログがシステムコメントだらけで満たされた頃、飽きてきたリヒターがいったん街に戻ろうと提案してくる。
リヒターの開いたキャンプ―個人専用の休憩スペースのようなものに入って一息つくと、次郎はふと思いついた事を書いてみる事にした。

「そういえば クエストがそれぞれ続き物?みたいに繋がるようになってたのか」
「やりこみ要素って奴な。単発で終わらせるより面白いじゃん?」
「ふーん もっと早く再開してたらもっと早く知れてたのかな」
「まぁそうだな。諦めなかったらずっと今日までプレイしてたかも知れないけど」
そこでリヒターは言葉を区切る。次郎はじっとその続きを待つと、相手はまるでカッコつけるようなポージングと共に改めて口を開いた。

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あきゅろす。
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