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アラマホシーズンズ

 しかし今は、助けてくれそうな先輩ユーザーがいない。
一撃で街へと引き戻されてしまうのは試さなくとも分かる。
逃げるように目的のモンスターだけを攻撃し続けられるだろうか。

途中までうまくいっているように見えても、範囲魔法を使われれば動けない。
(もしもあと一歩までいけそうになっても、街に戻されれば最初からやり直し―)

そんなの時間の無駄だと次郎は思った。
それなら、このゲームはもうここまでの運命だったのかも知れないとも。
マウスを握る手から、力が抜けていく。

「久しぶりに、高揚感を味わわせてくれてありがとうな」
独り言ばかりは流暢に。地面をクリックして、はじまりの街へと進み出す。その時だった。

「また諦めるのか?やってみなきゃわかんねぇって言ったじゃん」
ガーゴイルが、音もなく膝から崩れ落ち、半透明の泡になって消えていく。
左下に表示されたチャットログに、突如現れた誰かの一言。

名前は―“リヒター”
忘れもしない、本間次郎にとって最高の親友が心血を注いで育てていたキャラクターだ。

しかし、よくある言葉でもある。まさか本人の筈である訳がない。
メデューサに魅せられたように、次郎の時は止まった。緊張から呼吸が速まって、汗が一滴こぼれる。

ゆったりとした足取りで画面の中に現れたその“リヒター”は、太陽のようなオレンジの長髪に、RPGには不釣り合いな燕尾服を着ている。
そのセンスのない標準装備は、記憶の中と寸分の狂いもない。

「なんで俺だって分かったんだよ」
気がつけば、指は勝手に文句を送信していた。

 他にも聞きたい事は、言いたい言葉はもっと沢山あった筈なのに。
それでも何よりも優先してこれが出てきた。心が踊り出すように、返信を待つ。
リヒターは、仰々しくも頭をかくアクションをしてからしゃべり出す。

「待ってたから。“マホン”がマホンの姿で帰ってくるって確信してたし」
「は!? 俺引退してから 4年経ってるけど?」
「まさか最後の最後になるなんてなー」
「待ってたって おまえしごとは」
思わずトークが乱れるがそれも無理はない。リヒターがあまりにも自然に名前を呼んでくるから、以前と同じノリで会話をしても良いのかと錯覚しそうになる。
次郎の勘違いでなければ、二人は仲違いをしているのではなかったのか。

「ごめん」
「何が?気にすんなよって言ってほしい?」
「人がどんな気持ちで」
「はいはい。僕としては、使ってくれたの見れただけでもう満足だからさ、ガーディアン」
リヒターがマホンを小突く。謝らなくて良いと言ってくれているようだ。
謝罪はいいのなら、自分は次に何をすれば良いのか。考えなくてもすぐに答えは出た。

「シリアルコード 嬉しかった さんきゅ」
「よろしい」
間髪入れずに返事をしてから、髪の毛の色より明るい太陽のマーク頭上に表示させて、リヒターは笑う。まるで画面の向こうでも、彼が笑っているかのように。
この光景を途中から見ている人が仮にいたとしよう。この二人が4年ぶりに話をしている事に気がつけるだろうか?
それくらい、久しぶりとは思えない程、次郎のキャラクターこと、“マホン”とリヒターは自然に寄り添っていた。

「何クエしてんの?」
「見覚えのないオカマみたいなヤクザのやつ」
「マホンがやってた時から二世代進化してるから、そういう見覚えないの多いかも。
おk、僕それのアイテム今持ってる。使う?」
「いやそれは 自力で集めたいっしょ」
わかる、と呟いてリヒターはマホンにパーティ申請を出してきた。
組んで狩りに出かける事で、経験値や敵の情報などを共有出来るのだ。
そんな何気ない行動も、次郎からすれば懐かしくて仕方がなかった。自分一人では、この光景はきっと見られる事はなかっただろうから。

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