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アラマホシーズンズ

 お互いに腹の内を明かしてしまえば、後はもう時間がくるまでボードゲームをひたすら遊ぶだけだった。成人済みの男性が二人。夜ももう遅い時間に入りかけている。
話題と言えば、所謂下ネタだけだった。

「お前さ、なんかリープリヒでぬ、ヌいたとか言ってたよなそういえば」
咳払いをこぼすふりをしながら、次郎は言いにくそうに告げる。
「なんかディープの方した時あんまりにもロマンティックな演出されるからさぁ……つい?」
「まぁ気持ちは分かる−その、俺も同じだし」
カードの方に目線を降ろしたまま、これに関しては特に恥ずかしげもなくカミングアウトしてくるではないか。
「クソ気になるじゃん何なのアンタ。ねぇ、どうした?道具とか使った?」
「健全な男子高校生がそんな道具なんて持ってる訳ないだろ! ……え?まさか、お前?」
生唾を飲むように次郎はようやくこちらを向き直った。自分から切り出しただけある、何だかんだでこういった話題には興味津々なのだ。

「僕はね、使ったよ。ホールでこうやって包んでさ」
疑似的に再現するかのように、彼の腕を両手でとってやんわりと閉じこめる。熱い吐息がふっと首筋にあたってくすぐったい。
「ねぇ……どんな感じだったか、味わって」
みたい?そう最後まで言い終わる前に、ピリリリリ!とけたたましいサイレンが終了時刻をお知らせしてくる。
畜生、いい所だったのにと舌打ちを一つこぼせば、荒瀬の舌打ち久しぶりだ、などと予想の斜め下のコメントが返ってきた。

 「どうでもいいけど、荒瀬、なんて僕の事呼んでたっけ?」
「そういうお前こそ、本間なんて俺の名前ちゃんと知ってたんだな」
学生時代は顔を合わせば喧嘩ばかりで、あの文化祭の後の限られた期間しかこうしてまともには呼べていなかった気がする。
大通りをあてどなく歩きながら、これからはずっとこんな穏やかな時間が続くのだと感動すら覚える。

「じ、次郎」
「何だよ理人」
「タクシー代お支払いしますので、僕ん家行きませんか」
「どこのテレビ番組だっての」
はにかみながら、頭をくしゃりとひと撫でされる。これはオーケーと捉えて良いのだろうか。
答えを考えあぐねている間にさくっと車を呼び止めた次郎は、自分の家を指定するかのようにすんなりと理人の自宅である書店名を依頼する。
「そう言えば、ご家族さんとかは? いきなりお邪魔して平気か?」
「店継いでからは両親田舎で隠居したから……今は、やりたい放題」
「やっやりたい放題……」
声が裏返りながらも次郎は反芻する。勘違いしそうになっただろうがとすぐさまどつかれたが、あながちこれが間違いでもない。
だってこれから自分は彼を、抱くつもりでいるのだから。

 こちとら四年以上お預けを食らっていたのだから、少しくらいはかぶりついてしまったって咎める者はいないだろう。
玄関のドアが完全に閉まるのを確かめてから、そのままドアに彼をそっと縫い止めて、頬に触れる。外はまだ初春になったばかり、冷えたのだろうか指先にチリッと刺激が走る。
「りひ、」
「黙って」
何か言い掛けるが全て飲み込むようにキスをする。息継ぎの合間に歯列を軽くなぞれば、ぞくりと震えて彼の膝が笑った。
「は、待って、腰抜けそ……」
「そうしたら、保健室に運んだみたいにベッドまで連れてってやんよ」
ああそれとも、もう寝室に直行したい?
不適にそう笑って見せると、髪の毛のように顔を赤くして頭を振る。
あんな話題自分からしておいて、今更何だというのか。

 欲望のまま貪り合って、シャワーを浴びて一段落。まだ少し肌寒い季節だ。風邪でも引かれたら寝覚めが悪くなるとMAXに稼働した暖房の下、二回戦目が始まらんという勢いでベッドに二人沈み込んだ。
「はは、まだなんか中に違和感がある気がする」
「っまたアンタはそういう事をずけずけと……無自覚で言ってる?」
「半々ってとこだ。ちょっとは狙ってる点もある」
胸元に頭を押しつけて、ぐりぐりと顔を埋められる。もしかしなくても、これは甘えているという事なのだろうか。
「そういえば、もうニット帽は被らないんだな」
ふと思い出したように次郎は口を開く。高校時代のトレードマークだったあれの事か。
「気を引きたいが為につけてたようなモンだし」
「ああ、だから……初めて会った時、なかったのか」
「え、まさか覚えて−」
それを確認したいのに、ふわ、と小さく欠伸をした次郎はそのまま微睡みの中へと落ちていく。
この先いくらだって確認は出来るからいいか。そう自分を納得させようとしたその瞬間。次郎ははっきりと覚醒してベッド上に正座した。
「じゃない!もっと訊かなきゃいけない事あった!」
下世話な話かも知れないけど、と予防線を張って彼が尋ねてきたのは、他でもないあのプレゼント−ガーディアンの事だった。
「結構したよな?あれ……本当にすまない」
「まぁ軽く十数万は飛びそうな感じだけど。まぁいいさ。これからたっぷり体で払って貰うから」
臍の周囲を人差し指でぐるりとなぞれば、色気のない悲鳴が小さく挙がる。
また喧嘩腰に否定されるかと思いきや、頭を振ってから、深呼吸。
「こんな貧相な体で良ければ、いくらでも」
「何馬鹿な事言ってんだ冗談だっつの。まぁそれだけの覚悟があるなら、これからも退屈しないで済みそうじゃん」
今こうして彼を手に入れられたなら、それだけでそれ相応の価値があるのだ。
そんな事を一人でに考えながら、頬をひと撫でして再びキスを落とす。すると彼は安心した様子で今度こそ眠りの底へと誘われていった。

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