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アラマホシーズンズ

 彼を保健室に運べば、どうやら寝不足であったらしい、少し休ませて体調が戻らないようなら帰宅させましょうとは養護教諭の弁だ。
少しの間留守を任された荒瀬は、ベッドで青白い顔をしたまま眠りこける本間を一瞥して長いため息を吐いた。

 早く起きろ。しっかり休め。そんな二律背反な気持ちを浮かべて、上下する胸元に視線を落とす。
すると何かに引き寄せられるように短いまつげを持ち上げて彼は目を覚ました。
「気分はどうだ」
主役だなんだマホンがなんだと浮かれていた自分が恥ずかしい。自分への苛立ちが収まらず、声すら低くなってしまう。
彼は酷く憔悴した様子で無理矢理起きあがろうとしながら、ひたすらに謝罪する。
本来なら自分ばかり仕事を押しつけられたと詰ってくれてもいいのに。
そんな表情が見たくて聞いたんじゃない。
怒りのまま彼の胸を押しやってベッドに縫いつけ、体温計を差し込む。
「チッ……裏方が倒れてんじゃねぇよ」
倒れさせるまで無理するなよ、そう言いたいのにこの口はこんなに時にもひねくれてしまうのか。

 一日目を終えて、ぎこちないまま本間と校門まで歩く。二人で食べたラーメンはいつもより何倍も美味しく感じるのは気のせいだろうか。
(気のせいなんかじゃない。今日は本間に振り回されっぱなしだ……)
顔が紅潮してしまうのはきっと熱いラーメンを食べたせいだ。
それなら、保健室から離れられないくらい心配なのは?
それはきっと、彼の事を簡単には言い表せない程度には好きだから?
自転車を漕いで、白い息を吐いて。ふと思い浮かべたのはマホン−リープリヒを作った、あの彼の事だった。
そして迎えた二日目の朝。教室で準備を手伝っていると、ふとトキタと本間の会話が聞こえてきた。
「今日他のクラス見て回らない?」
「喜んで」
先を越された!そう思った時には既に遅く、二人は楽しげにマップを広げて全制覇のルートを提案しあう。その光景が無性に悔しくて、声をかけてくる女生徒を一切断らずにいると、お化け屋敷やメイドカフェに引っ張りだこに連れ回される羽目になった。

 中庭で、ウララに“相談があるの”と打ち明けられた時は噂になったらどうする気だと焦りもしたが、蓋を開ければなんの心配もない話で拍子抜けさせられる。
「ウララさんとトキタ君ってどう見ても両思いじゃん?」
「そう、かなぁ……」
「そうそう。きっとリープリヒって思ってるって」
「あれ?その言葉本間さんも言ってたな。どういう意味なの?」
「本間が?」
外の音が一切聞こえなくなる程の衝撃があった。普通であればそんな言葉、そうそう出てくる筈もない。ましてや、本来ならヒュプシュと読む方が多い筈だ。
まさか−否、気づかないフリをしているだけに過ぎなかった。
たまたま、同じ年で、同じタイミングで文化祭の実行委員になった、ゲームフリークのカンストユーザー。しかも、髪は真っ赤。
そんな偶然が、そうあってたまるものか。
「リープリヒの、意味は」
「可愛いって事だよ……ウララ」
突如として背後から現れたトキタに、これ以上の説明は不要だとその場を離れる。
一瞬校舎の方から視線を感じた気がしたが、振り向いた時には既に誰もいなかった。

 教室に戻れば打ち上げまでの時間潰しにとUNO大会が始まっていた。
カードを切りながら、混乱したままだった思考を整理し直す。
右隣に少し距離を開けて着座した本間は、昨日の体調不良はどこへやら、すっかり元気を取り戻したように見える。
「ちゃんと参加して良かった」
声は元々タイプ。ゲーム上で垣間見せる性格は−相性抜群。つまり、好きにならない方がおかしい。
「僕は仲良くなりたかった子と話せたから、悪くはなかったかな」
少しだけ素直になってみよう。そう決心して紡いだ言葉は、自分ですら優し過ぎると思うくらい柔らかな声色になった。
「荒瀬にも好きな奴いたんだな」
アンタの事だけど。流石に此処で言うのは勘弁しておいてあげよう。まぁそうなるのかもと濁しておけば、クラスメイトの好奇の目はますます強まった。
これまでの全てに合点がいき気分は最高潮。そのお陰かUNO大会は一位で勝ち抜け
る結果となった。

 好きな人が二人いるんじゃないかと思う間もなく、それは同一人物でした。
そうと決まれば、やる事は一つ。まずは既成事実を作り外堀を埋めていこう。
幸いこのゲームには結婚の機能がある。男性キャラ同士のマホンとリヒターでは叶わなかったが、リープリヒなら。
どんどんと攻めれば頼まれると断れない性格の本間は手のひらで転がるように了承してくれた。
それと同時に、リヒターは自分でしたと明かして一世一代の告白もしようと計画を練り始めた。勝算はあまりない。だが、これまで自分を多少なりとも振り回してくれた事へのお礼参りはさせてくれないとと考えていた。
その為に、実家の本屋で正式にバイトを初めて貯金を開始した。
目標は、彼が喉から手が出る程欲しがっている、あのガーディアンをオークションで競落とす為に。

 「……その後、名前の話になって俺はお前が好きだって気づかされたんだよなぁ」
何気ない思い出話のように、次郎は荒瀬の話に相づちをうつ。
(否ちょっと待て、そんな重要な事さらっと打ち明けるな!)

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